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朝日新聞 住まい/世界のウチ

バルコニーだって立派なガーデンだ 2006.05.31

「新しい部屋、見つけたんだって? で、バルコニー付いてる?」。そんな会話をこれまで何度聞いてきたことだろう。いまとなっては私も同じ質問をする側になってしまったのだが、特に最近の若い世代の人にとって、バルコニーの有無は部屋探しのときの重要な条件の一つに入っているようだ。

そもそもドイツは森の国ともいわれているだけあって、都会でも自然が比較的身近に感じられる国の一つである。季節を問わず休日になると、大きな公園や森の中を、友人や家族、愛犬と一緒に何時間も散歩し、そして最後にカフェで一休みして家路に着く。それだけで満ち足りた一日になるのだ。だから自然をもっと身近に取り入れることのできるバルコニーは、庭のない集合住宅に住んでいる人にとって極めて重要なのである。

バルコニーといっても、大きさや形、方角もさまざまだが、やはり南側に大きく張り出した開放的なバルコニーのある部屋は人気が高いし、最近建てられる集合住宅には必ずといって良いほど大きめのバルコニーが設けられている。また窓辺やバルコニーの演出に労を惜しまず、緑や花の飾り方もしゃれているお宅が少なくないから、この外部空間は小さな庭や花壇としての機能も持ち合わせているのだろう。

もちろん日本でも、バルコニーのあるお宅やマンションなどでは、植木鉢をいくつも並べたり、小さな家庭菜園を楽しんだりしている人も多いはずだ。でも、そこでゆったりとした時間を過ごす気にさせてくれるような例はあまり見かけないように思う。むしろ大抵の場合は、洗濯物干し場やエアコンの室外機置き場であり、あるいは行き場を失った荷物の仮置き場を兼ねた緊急時の避難通路だったりすることが多いのではないだろうか。

確かにドイツでも立派なバルコニーがある家庭はそう多くないけれども、比較的大きなバルコニーがあるお宅には、大きな植木鉢がいくつも置かれ、できるだけ緑を取り込もうという意気込みが感じられるし、気候の良い季節になると、そこで優雅に食事を楽しむ姿を見かけたりもする。天気の良い日には日傘のもとで本を読んだり、手紙を書いたり。そして日暮れの遅い夏の夜には、穏やかな風に吹かれながら、ビールやワインを片手にバルコニーでゆったりとした時間を過ごす。そんな生活に潤いを与えてくれるドイツのバルコニーは、立派なガーデンそのものに違いない。

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