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朝日新聞 住まい/世界のウチ

屋根裏部屋は暑さにクルルー 2007.01.24

急勾配(こうばい)の三角屋根が連なる統一感のある街並みは、ドイツや欧州の都市が持つ特徴の一つである。その三角の下にある屋根裏部屋は、いまも重要な住空間として立派に活用されているけれど、下階よりも家賃が低めに抑えられているのにはそれなりの理由がある。

まず昇り降りが厄介だ。5、6階建ての古い集合住宅にはエレベーターがないところが多いから、買い物帰りは特につらい。それから部屋の天井はもちろん斜めだから、低いと圧迫感があるし、大抵の窓は小さいから、空には近いのに開放感に乏しいのも屋根裏部屋の特徴だ。中には窓の位置が高すぎて下界が見えない場合もある。最悪なのは空しか見えない天窓だけの部屋だ。傾いた天井と天窓だけの空間というのは、隠れ家というより独房的閉塞(へいそく)感が否めない。それに天窓は雨音が響くから、就寝中は特にうっとうしく感じる。

ともかく、いろいろな形態のある屋根裏部屋だけど、外気温や日射の影響を受けやすいのは皆同じである。ドイツには断熱が行き届いている建物が多いとはいえ、それはきちんと改修されている場合の話であって、断熱もままならない古い屋根裏部屋の温熱環境は、天候と四季の変化にほどよく翻弄(ほんろう)されることになる。

実はそういう私も屋根裏部屋の住人の1人である。大家さんが20年前に自ら改修したというこの部屋が気に入って入居したのだが、ご多分にもれず、夏は結構暑い。ドイツの夏は湿度が低いから日本の夏に比べると格段にしのぎやすいけれど、風通しの良いこの部屋でさえも屋根をじわじわと抜けてきた熱がこもりやすいのは確かだ。もっとも、それくらい暑くないと夏とはいえないのだが、エアコンがほとんど普及していないドイツでは、屋根裏部屋の夏の暑さはいかんともし難いのである。

ところで、そんな私の部屋の軒先に時折やって来るハトがいる。目が合ったときに首をかしげる姿がそれなりに愛くるしいけれど、訪問客がハトだとちっともうれしくない。まして仕事に集中しているときに、手の届きそうなところで「クルルー」などと鳴かれるとしゃくにさわる。しかもこのコラムを書き始めてから、その鳴き声が「トホホー」と聞こえるようになったのは問題だ。

それはともかく、寒暖の差が適度に激しく、ときどき鳥のちょっかいを受けることもあるけれど、空が近くて隠れ家っぽい感じのする屋根裏部屋は、なかなか味のある生活を体験させてくれる住空間の一つなのである。

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