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還流独歩

ベルリンからケルンへ 2009.10.30

8時過ぎにチェックアウトを済ませ、荷物をレンタカーに乗せる。今日の視察先は車を停める場所を見つけるのが難しいため、ホテルにレンタカーを置いたままにして、8時半前に歩いて出かける。ホテルから視察先までは徒歩で30分弱だから、朝の散歩にはちょうど良いのだが、すぐ近くのフリードリッヒ駅に向かうと、何だか歩くのが急に面倒になったので、ベルリン中央駅まで一駅だけ電車で移動することにした。

朝の通勤時間とはいえ、電車内はそれほど混んではいない。ベルリン中央駅を少し見て、集合場所のモルトケ橋へ行く。ここには消防署と警察署が一つ屋根の下に入っている建物がある。設計はザウアーブルーフ・ハッテン事務所である。そこに勤める友人に別の建築案内を依頼したところ、たまたま今日、ノルウェーの建築家たちを案内する予定が入っているので、彼らに合流して、この消防署と警察署を一緒に視察してはどうかと誘われたのである。9時前、案内をしてくれるクラウスが自転車に乗って現れた。ノルウェーの一行は、それから10分ほど遅れて来た。

この建物は、保存建築の改修と新規の増築部分で構成されている。新築部分の外壁は、同事務所が得意とする色彩豊かな仕上げが施されている。消防署の色はドイツでも赤だが、警察署は緑色である。だから外壁は消防署の部分は赤を基調とした配色になっており、警察署の部分は主に緑色で構成されいてる。公的な機関であっても、こういった派手な色彩を持った建物が許されるところが建築に対する懐の大きさを感じさせてくれる。

建設予算の問題もあって、建物内部は非常に簡素化されたつくりになっている。換気も窓の開閉だけで行っているとのこと。消防署も警察署も人の動きが激しいから、居室の換気は人が頻繁に出入りすることで行われるといった冗談半分のような解説を聞かされると、そこまで合理的に考えられる思考回路が羨ましく思える。手元で操作する可動式の日よけの構造も面白い。1時間半近い案内を頂き、とても有意義な視察となった。

ノルウェーの建築家たちとお別れし、クラウスにお礼を言って、一旦ホテルに戻る。そこから車でベルリン郊外の仮葬場を視察に行く。なかなか面白い建物だ、30分ほど視察してから、ベルリン市内に戻り昼食。午後から気温が下がって来たのか、結構寒く感じる。そのあとオランダ大使館に立寄り、コルビジェが設計したユニテ・ダビタシオンへ向かう。1956年に完成した築53年の集合住宅は、いまもしっかり使われている。大きな共用玄関には解説文が掲載され、当時を彷彿とさせるデザインも随所に残されている。

すぐ近くにあるオリンピック・スタジアムを少し視察し、市内の中心部にある版築の教会が今日の最後の視察先である。冬時間に戻り、日が暮れるのが一段と早くなって来た。視察に来られたお二方とは、ポツダム広場のソニーセンター脇でお別れし、テーゲル空港へ向かう。途中で給油し、レンタカーも無事返し終わった。搭乗手続も問題なく済み、ケルンへ向かう飛行機は定刻に出発した。

ケルンに到着し、中央駅からバスに乗り換えたまでは良かったが、いつものバス停で降ろしてもらえない事態が起きた。大きな荷物を持っていた私はバスが止まってから扉に向かって移動したのだが、その数秒間の間にバスは発車したのだ。「停めてくれ」と叫んだが、バスは次の停留所まで移動してしまった。あまりに腹が立ったので、降りてから運転手に文句を言いに行った。「暗くて見えなかった」という言い訳がましい対応に、ますます頭に来たので、ドイツ語の決まり文句のような捨て台詞を運転手に浴びせた。

降車は間違いなく知らせたのだが、私の動きが遅かったのは事実だ。しかも他に降りる人が誰もいなかったことも災いしたが、それにしても、こういった不親切な対応は、まさにケルン市交通局の体質そのものである。部屋に戻って、すぐにでも寝ようと思っていたのに、怒りが収まらず、逆に目が冴えて来た。

ケルンに戻って来たら、また飲もうと誘ってくれた友人から連絡があり、今夜はいきつけの店にいるというので、気分を入れ替えるために深夜に出かける。久しぶりの再会にもかかわらず、ここ二週間の疲れからか、思うように話題を切り出せない。バスの運転手への怒りもあって、ビールを飲む勢いだけはいつにも増して激しい(苦笑)。

ケルンの空気に触れて安堵したのもつかの間、降車できないバスに怒り、眠れなくなって友人に再会し、そのまた友人たちとケルシュビールを飲みながら下らない話で深夜まで盛り上がった夜になった。二週間の移動だったが、特に大きな問題も起きることなく、無事終わり安堵感で一杯である。お会いした皆さんに感謝。そしてケルンとケルンの友人たちにも・・・。

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