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ヴァッシュザローン 2009.11.08

コインランドリーのことを、ドイツ語では「ヴァッシュザローン/Waschsalon」と言う。英語に直せば「ウォッシュサロン」だ。洗濯するところに「サロン」と名付けるとはドイツ語らしくないのだが、発音は「サロン」という軽い響きではなく、「ザローン」と濁ってしまうあたりが、やっぱりドイツ語だったりするのである。ちなみにフランス語ではラヴェリー・リーブレ・セルヴィス/Laverie Libre Serviceという。

サロンとは、応接間や人が集まって歓談する場所のことであり、社交場をも意味している。ドイツ語の辞書には、最初に理容室・美容院と載っており、次に客間や応接室、文士・芸術家の集いと出ている。だから洗濯する場所にサロンと付けることは、本来の意味から大きく逸脱しているようにも思える。

でも、ドイツ語のヴァッシュザローンは結構広いし、テーブルや椅子なども用意されているから、洗濯しながら新聞や雑誌を読んだり、手紙を書いたりすることもできる。混んでいれば、互いに譲り合って使うことはもちろんだし、使い方がわからない人がいれば、気軽に教えたり、小銭がない人がいれば両替をしてあげることは普通に見られる光景だ。

何年も前のこと、ドイツの友人が、ローマ出身の女性を紹介するからというので、どこで知り合ったんだと訊くと、笑いながら「ヴァッシュザローン」だという答えが返ってきた。どういう経緯でその彼女と話すきっかけになったかのかはわからないが、洗濯をするという同じ行為から生まれる妙な協同意識みたいのが存在しているようだ。そう考えると「洗濯サロン」という名称は意外と含蓄のあることばにも思えてきた。

それに対し、コインランドリーということばには深みも奥行きも感じられない気がする。それは洗濯をする機械そのものを指しているからだろう。コインランドリーは洗濯をするためだけの場所であって、それができればよいのだろう。コインランドリーでのコミュニケーションなんて必要ないことかもしれないが、「ウォッシュサロン」の方が響きが良くて柔らかく聞こえるから、洗濯をしていても何となく気持ちが和みそうだ(笑)。

日本のコインランドリーは、あまり奇麗ではないところも多く、何となく不潔な感じを受けることもあるから、ウォッシュサロンという名称に変えれば、少しは素敵な洗濯空間に変身するのではないかと勝手に思っている。

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