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還流独歩

カイゼンの国ニッポン 2009.11.24

昨日会ったヘンリックとは、いろんな話をし過ぎて、よく覚えていないと書いたが、その中で彼は面白いことを言っていた。「ニッポンはカイゼンの国なのに、建物は全然カイゼンされていないね」。カイゼンとは、もちろんトヨタ方式のカイゼン/改善に代表されるように、製造業の分野で世界的に有名になっている日本語の一つである。ただし、カイゼンが日本社会のすべてにあてはまるかというと、一概にそうとは言えない気もするが、彼の指摘はとても的を得ている。

それは、彼が留学していた慶応大学の寮の話が発端だった。彼は寮の部屋が寒いので暖房をつけるのだが、身体の半分は暖かいのに、窓側に面した側は寒くて、寮の想い出はそれが強いという。どんな暖房方法か訊くのを忘れてしまったのが、彼の話し方から推測すると、一般的な壁掛けのエアコンではないかと思う。「ニッポンはこんなに進んだ国なのに、建物の中はどうして寒い?」。

彼の素朴な疑問に、どう答えたら良いのだろう。これは私個人に向けられた質問ではあるが、むしろ日本の建築業界全体への激しく的を得た問いかけであると思う。私は私なりに考えて、日本の建築の歴史から、建築に対する日本人の一般的な思考といったようなことを伝えた。それを説明すればするほど、もう21世紀にもなるのに、我々は一体何をやってきたのだろうか、という疑問が沸く。

戦後の貧しかった時代のことを私は知らないが、それから60年以上を経ているにもかかわらず、室内の温熱環境を良くするために建築の質を上げることに対する努力を、建築業界の人ははたして真剣に講じて来ただろうか。暖かさや寒さをできるだけ建物側で調整しようという取組みはなかった訳ではないし、それに対して尽力している人はたくさんいる。でも何かが足りないと思う。

スウェーデン出身の彼は暖房が主体の国に住んでいるから、環境が違うのは確かだ。日本の大抵の場所は、夏暑くて、冬寒い。だから暖房のことばかりを考えてはいけないけれど、実は日本の建物で消費される暖房用の化石燃料は冷房より大きい。東京では夏の冷房用の電力需要が取沙汰されることが多いが、それは冷房が電力でしか行えないからだ。

暖房にはいろいろな方法がある。電気ストーブやヒートポンプといった電力に頼ったもの以外にも、ガスや灯油を使った暖房方法は幅広く普及している。最近ではペレットストーブもあるし、薪を使った暖炉も考えれるだろう。つまり、日本の建築は夏の冷房のことばかり考えて来たけれど、実は暖房にも気を配らなくてはいけないのだと思う。

建物を設計する側も施工する側も、あるいは不動産を扱う側も、もっと認識を改めないといけないはずだ。21世紀にもなって、日本全国で相変わらず寒い建物を建て続けているとすれば、温熱環境のカイゼンに対する意識が極めて低いと言わざるを得ないのではないだろうか。それこそ、建築のカイゼンではなく、建築に携わる人間のカイゼンの方が先ではないかとさえ思える。

私に向けられたヘンリックの質問に対して、私なりの答えを見つけ出さなければならないし、それは機会あるたびに、建築に携わる人へも問いかけて行くべきだと思っている。

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