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還流独歩

友人宅訪問 2009.12.20

今日は朝から雪が降り続き、昼間も暗い一日になった。降雪量は5cm程度だろうか。それほど多くはないが、車道以外は雪に覆われている。時折、風を伴って激しく降ったりするが、日本の豪雪地帯に比べれば、その降り方はいたって生易しい方だ。とはいっても、こんなに雪が降るのは珍しいから、どれくらい積もるのか気がかりではある。

夕方、訪問の約束をしていた友人宅にお邪魔する。彼と知り合ったのは、2000年の春だから、もう10年の付き合いだ。私が呼ばれたパーティーに彼を連れて行ったら、そこで会った女性と意気投合し、2年前に結婚してしまった。だから私は市役所で行われた彼らの婚姻届式の立会人(Trauzeuge/トラウツォイゲ)という名誉な役を仰せ付かった。

そんな彼らにも今年になって子供ができ、現在は10か月になる。それを機に今年の春頃から新居を探し始めたのだが、なかなか良い物件が見つからず、私も部屋の見学について行ったこともあった。たまたま以前視察したことのある、新しい住居団地の話をしたところ、賃貸物件がいくつか空いていることがわかり、9月から新居での生活を始めたばかりである。

この住居団地の大きな特徴は、車の乗り入れを制限していることだ。車を保有するのは構わないが、地区内には車を乗り入れることができない。この住居地区については、2010年1月下旬に、朝日新聞のウェブサイト版に掲載されることになっているので、詳しい説明は、そちらに譲りたい(手抜きですみません/苦笑)。

外に出ると少し暖かく感じられる。雪が降っているせいもあるかもしれないが、数日前よりも気温は確実に上がって来ているようで、それほど寒くは感じなくなった。彼らの家までは、地下鉄の移動も含めると40分くらいだろうか。日曜なので、どのお店も休みだが、パン屋さんが一軒だけ開いていたので、残り少なくなったケーキを3つほど買い、彼らの新居に向かって雪の中を歩き始めた。

ところが、道を一本間違えたせいで、住居地区への入り口を見失ってしまい、結局、ものすごく遠回りすることになってしまった。「確か、このあたりから入れたよな」と思って行ってみると、工事用の柵で行く手を阻まれたりして、予想外の展開になった。最寄駅からは、25分くらいかかったかもしれない。ケーキを持つ手は冷たいが、身体は次第に暑くなってきた。

彼らの新居にようやく到着。玄関前で靴を脱いでお邪魔すると床暖房が利いていて気持ちがよいのだが、道に迷って歩き続けて来た私にはとても暑いのでセーターも脱いでしまった。前回、会ったのがいつかは、お互いに想い出せないのだが、多分、春頃だったのではないかと思う。あっという間に夏が過ぎ、彼らの引越も手伝うことができないまま、気がつけば12月である。

引っ越してから3か月がたったとはいえ、子供のいる家族の引越は大変だ。最近になって、ようやく全部の荷物を開けたという。家具なども買いたいが、まだその余裕はないという。ケーキを食べながら、そんな話をする。そんな10か月になる子供は、もうつかまり歩きができるようになっていて、おもちゃを入れる車輪付きの箱を押しながら、家の中を何度も往復している。

新居の広さは70平米だという。南側の居間も適度な広さがあり、屋根なしのバルコニーもついているから開放感がある。玄関から居間に向かう廊下の左側には、キッチン、子供部屋、寝室が配置され、その右側にはシャワーとバスタブが分かれている大きな浴室がある。子供が生まれたばかりの3人家族には十分な広さだし、彼らも新居は気に入っているという。

肝心の車だが、カーシェアリングがあるので、それで済ませているという。以前はレンタカーを借りていたが、この住居団地に住む人は、近くのカーシェアリングの料金が確か半額になるし、数時間単位で借りることもできるから、ちょっとした買い物に車を使いたいときにも便利だという。だたし、週末や休暇前は多くの予約が入るので、好きなときに借りられないことも多いのが難点らしい。

1時間半くらいお邪魔したあと、帰りがけに地下室を見せてもらった。この住居棟は全部で7戸あるが、各住戸の洗濯機が置ける共同洗濯室のほか、金属製の柵で仕切られた物置、そして駐輪場が完備されている。住戸の東側には地下へのスロープがついていているから、自転車の出入りにも困らない。こういった地下室を見ると、さすがドイツだと感心する(笑)。

外に出ると、まだ雪は降っているが、なんとなく暖かく感じられる。最近の若い世代の人たちは、居間などにはカーテンを掛けないことも多く、夜になると生活空間が見えてしまうのだが、閉じた生活はしたくないという意識の現れだろう。降誕祭に合わせて帰省してしまったのだろうか、明かりのないお宅では、窓辺に飾られた電飾からほのかな明かりが漏れてくる。

どの集合住宅も簡素なつくりだが、こういった居住空間を体験すると、何となく豊かさというものを実感する気がする。でも、何故そう感じるかは自分でも正確にはわからない。居住空間に求められる本質のようなものが普通に実現されているからなのかもしれない。そんなことを考えながら家路についた。

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