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還流独歩

目覚し時計 2010.03.14

ちょうど一年ほど前、スイスの某メーカーの目覚し時計を買った。それまで機会あるごとに色々な目覚し時計を探してきたのだけれど、数千円程度の安っぽいものか、あるいは極端に高過ぎるかのどちらかだった。高いからといって、デザインが良いとは限らない。世界に名を馳せているブランド製のでも、古物商の人が扱うような古めかしいものが、あまりにも多かった。

目覚し時計に対する私の要望は大きい。デザインが良く、長く使い続けられるもので、しかも鞄に軽く放り込んで長旅の共にできるような気軽に持ち運べる、というものである。余計な機能は一切要らない。暗いところでも何時かがはっきり認識でき、あとは目覚しが付いていれば良い。宿泊先に着けば真っ先に取り出して、自分の空間をほんの少しでもつくり出せる小さな存在感も欲しい。

そんな要望を満たしてくれる目覚し時計をずっと探していた。そしてたどり着いたのはMONDAINE/モンディーンだった。決して安くはない。某店でショーケースを開けてもらい、実際に手にしたこともあった。その感触の良さにも惹かれたし、小さいながらも適度な重量感があることも気に入った。買うならこれしかないと思いつつ、なかなか手が出せなかった。

インターネットで少し安く買えることがわかって、一年前に思い切って買った。そして、私のお気に入りの一つになったのだが、実は一つだけ不満があった。12時に合わせたとき、長針と短針が奇麗に並ぶのではなく、短針が左側にほんの少しだけずれていたのである。これは時計が届いたときからわかっていたのだが、買えた喜びもあって、あまり気にしないようにしていた。

それが今年に入ってから不思議なことに、長針と短針が示す時間が明らかに違ってきたのである。例えば、長針が30分を示しているのに、短針はちょうど1時を示すのである。長針が0分を指しているときに、短針は1時と2時の中間である30分の位置にある。これだと何時がまったくわからない。こんなことは、どんなに安い時計でもありえないだろう。段々と腹が立ってきて、ついに着払いで修理に出した。

話は長くなったが、今日、その時計が戻ってきたのである。長針と短針の具合を見ると完璧に直っている。12時に合わせてみても問題ない。1年かかって、ようやく新品状態になった。もしかしたら、また同じ状態になるかもしれないという不安はあるけれど、きちんと時刻を示してくれる本来の目覚し時計を見たら、この一年間、引きずってきた微妙な残念感がようやく晴れたのである。

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