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還流独歩

日本食と建築の質 2010.07.26

批判を覚悟で書きたいことがある。

日本の人は、目の前に美味しい食事があれば、日々の生活に満足する人たちなのかもしれない。家の中が暑くても寒くても、食事に季節感を出すことで、涼しさや温かさを補う楽しみ方を日本人は昔から知っている。夏の素麺や冷たいそば、そして冬の鍋などはその典型だろう。家が多少古くて、中に物が溢れていようとも、エアコンに頼る生活を余儀なくされても、毎日食べることの方が大切で、それが満たされれば良しと思っている節はないだろうか。日本人にとって重要なのは、住まう空間の質から得られる充足感ではなく、日々の食事の方なのだ。

一方、ドイツの人は食事にはこだわらない人が多い。大切なのは毎日の食事ではなく、次の休暇にいつ出かけ、どこで何を楽しむかが重要であり、そして長く使う物の質の良さに触れて至福を感じることである。それは日々の人生を享受することであり、住まいに質の高さを求めることにもつながって行くように思う。戦前に建てられた天井の高い集合住宅の不動産価値の方が高く、日射しを浴びることができる大きなバルコニーがあり、そして、しっかりとした断熱が行き届いた暖かな住空間を求めることは、住まうことへの本質の追求に他ならない。

30年後に取り壊されるような住宅で、美味しい日本食を食べることと、築100年以上になる空間で、パンにチーズを挟んだ食事を摂ることの、どちらが幸せなのだろう。そんなことを比べても何の意味もないのかもしれないが、最近、いつもそんなことを考える。食べることに幸せを感じる日本人と、質の高い住空間に満足するドイツ人。もし可能なら、私はどちらも手に入れたいと思っている。いやそれよりも、建築の質とは何かを考えている人と一緒に仕事ができるなら、そんな素敵なことはないだろう。

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