理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

学校の光環境 2010.08.12

先日、事務所建築における「昼間の照明と窓の役割」について書いた。では学校はどうだろうか。現在の状況は知らないのだが、私が中学生の頃、廊下側の前の方に座ると黒板の左側が光って見えなかった記憶がある。「先生、黒板が光って見えませ〜ん」。すると窓側の子が薄汚れた白いカーテンを少し引き出す。それでも眩しかったら暗幕だ。

私が小学生の頃は子供の数が多く、一学級は45人くらいだったから、教室の前から後ろまで机で一杯であった。そのため教室の前の方まで勉強机を並べていたということも関係していると思う。いまは児童や生徒の数が減っているから、黒板に窓の光が反射して見えなくなる場所まで使うことはないのかもしれない。

ところで、それからほどなくして黒板に変化が見られた。緩やかに湾曲した弧の字型の黒板が現れたのである。これで窓からの反射が低減されたかどうか、あいにく私はまったく想い出せいないし、現状がどうなっているかもわからない。もしかしたら黒板が光って見えないという状況は解決されてしまったのかもしれない。

でも翻って、大抵の教室は黒板に向かって左側に窓があるはずだから、実は根本的な問題は何一つ解決されていなのではないかと思う。何十年もの間、教室の光環境を調整する役割が、だらしなく掛けられたカーテンだけだとしたら、建築に携わる一人として実に嘆かわしい。

それは温熱環境にもあてはまる。季節や時間帯にもよるが、太陽高度が低いときには、窓側の列には日射しが直接当たる。暑いからカーテンを閉める。でも気温が高い日には、冷房のない公立の学校では窓を開けざるを得ない。汚い日除けカーテンは、風が吹くと大きく膨らんで煩わしい。多分そんな光景は、いまでも日本で数多く見られるに違いない。

そういったことを何一つ解決しないまま建て続けられてきた学校建築。予算がないのはわかる。でも誰もが環境、環境と口にする時代になり、今度は環境教育が取り沙汰されている。子供たちの環境に対する意識を高めることはとても良いことだと思う。そして自分たちの身近な教室の光や温熱環境を考えることは、その基本になるはずだ。

最近になって、学校の改修や新たな試みが模索されているから、建築が子供たちの学ぶ環境を大きく変えることができるという認識が根付き、積極的な動きも出てきている。でもそれは、まだまだほんの一部に過ぎないだろう。太陽光発電や太陽熱を利用した設備的工夫だけではなく、何か建築からも提案をして行かなければならないと思う。

校舎の窓に無造作にかけられた白いカーテンがたなびくのを見るたび、小学校や中学校に通っていた頃の自分を想い出しながら、何か建築的な工夫を提案できないかといつも考えてしまうのである。

« »