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後ろめたい粗大ごみの廃棄 その2 2010.10.17

レンタカーにはナビゲーションシステムが搭載されていなかったが、場所は頭に入っていたので、集積所には問題なく着いた。予想外だったのは、その手前の交差点付近に、5、6人の男女が立っていて、これから粗大ごみを捨てに行こうとする人から、めぼしいものをもらおうとしていたことだった。アフリカ系の男性が何人かが近づいてきたが、彼らが望むような物は持っていないし、面倒にも感じたから、無視をしてそのまま素通りをした。彼らは身なりは良くないけれど、他の車にも何だか楽しそうに声をかけているようだ。しかも今日の成果を道端に並べて自慢しているようにも見える。

集積所に入る際に何か身分証明書のようなものを提示するのかと思ったら何もなかった。坂道を上ったところに係員がいて、窓を開けると何を持ってきているのか訊かれた。「テレビ類は真正面のコンテナ。木製の椅子は12番、スーツケースは11番だ」と早口で説明された。11番と12番は、車を後ろからつけるようにというようなことも言ったと思う。申請も何も必要ないし、用意したケルン在住を示す書類の提示義務も何もなかった。何だか拍子抜けである。粗大ごみを捨てに来ている人は他にもたくさんいる。後ろの車の人は、発泡スチロールを目一杯積んで来ていた。

コンテナにはテレビやラジオ、モニターが幾重にも積み重なっている。私はテレビとモニターを丁寧に置いたが、係の人は他のを思い切り奥に放り投げていた。捨てるのだから壊れたって構わないのだろう。それから椅子を別のコンテナに捨てた。車のあるところは高くなっているので、上からコンテナに放り込むようになっている。拾った椅子だけれど、何だか上から落とすのは少し気が引けた。コンテナの脇には巨大な破壊用のローラーがあるので、ある程度溜ったら小さく粉砕するのだろう。想い出のスーツケースも隣りのコンテナに投げ入れた。

粗大ごみの廃棄は10分もかからずに終わった。あとは車に乗って帰るだけである。何だかすっきりしたような、でも気分が晴れないような変な気持ちである。すぐ先の交差点の脇では、彼らが相変わらず車を停めて、何を捨てにきたのか訊いている。自分たちで使うのか、あるいはお金になるようなものだけを集めているのかわからないが、おそらく多少の現金収入になるのではないだろうか。ものを捨てに来たところに、それを欲しい人が待っている。究極の再利用である。

空気だけになった車に乗り、ケルン市内を抜けて帰ってきた。走行距離は34kmであった。普段から捨てることの大切さを力説しているのに、今日は何だか気持ちがすっきりしない。テレビとモニターと椅子とスーツケースがなくなった部屋は少し広くなった感じがするけれど、それらは皆、一体どこへ行ってしまうのだろうかと考えたら、変なわだかまりを感じるのである。

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