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還流独歩

透けて魅せますバスルーム 2010.11.16

11月3日(水)の早朝に提出した原稿の採用可否の連絡が来ないので問い合わせてみたら、今回は見送りということであった。世界の「ウチ」についての内容が求められているのに、私は宿泊施設について書いてしまったのである。バスルームなら何でも良いと書かれていたとはいえ、私の完全な思い込み違いであった。それはともかく、書くなら宿泊施設のこと以外は考えていなかったので、今回はやむを得ないというところだろう。

これまでも採用されなかったことは何度かあるし、特には気にしていないが、せっかくなので、文章だけでもここで紹介したいと思う。普段は何度も推敲してから本原稿とするのだが、今回は仮原稿として提出したものに、多少の加筆訂正を加えたものである。なお、添付する予定だった4枚の写真は、恐縮ながら掲載できないが、文章だけでも読んで頂ければ幸いである。
 
 
■透けて魅せますバスルーム

何泊かの出張や旅行に出たとき、大抵の場合は、どこかの宿泊先にお世話になるのが普通だろう。仕事であれば、ビジネスホテルなどを利用することが多いだろうし、旅行なら、行き先や予算に応じて、温泉旅館に泊まったり、あるいは大型のリゾートホテルなどに宿泊する人も少なくないはずだ。

そういった宿泊先の印象を大きく左右する一つが浴室であろう。特に日本のビジネスホテルに限って言うと、洗面と便座と浴槽が一体となったシステムバスが使われていることが圧倒的に多いから、中には顔を洗うのも難しいくらいの小さな洗面台や、膝を抱えないと入れないような浴槽さえ見受けられる。それを見ると、気持ちまで縮こまってしまいそうだ。だから浴室の広さは、ホテル選びの基準になることも多いようだ。

それは、ドイツや欧州のホテルでも同じかもしれない。ただ一般的に言って、浴室は日本のよりも確実に大きいし、浴室のしつらえにも工夫が織り込まれている。その中でも、ここ10年くらいで様変わりしたのは、シャワーカーテンの代わりに透明なガラスの仕切りが用いられるようになったことだ。特に最近、改修が行われたホテルなどでは、もはやカーテンのような視界を閉じるものは存在しないと言い切って良いくらいである。

隣国のオランダの人ほど顕著ではないが、ドイツの若い世代の人たちは、夜になってもカーテンを閉めない人が多くなって来ている。そんな風潮が浴室にも波及して来たのか、特にドイツのホテルは透けて見えることに力を入れているようだ。つまり、ガラスの透明性を活かした開放感のあるバスルームが求められているのだろう。またガラスは簡単に掃除ができるから、清潔感もあるし、奇麗好きのドイツ人にはたまらないに違いない。

先日泊まったホテルは、四つ星なのに浴槽がなかったが、ガラスで仕切られたシャワー室は、奇麗な浴室と一体感のあるつくりになっていて、シャワーを浴びる楽しさを感じることができた。しかも浴室の壁の一部に縦長のガラス窓がはめ込まれていて、そこについているブラインドを上げると、部屋の中から浴室とシャワー室が見えてしまうのだ。逆に、シャワーを浴びながら、部屋まで見通せてしまうなんて、透け過ぎではなかろうか。

見せることも、見られることにも、それほど抵抗感がなくなってきているドイツの人たちが、そこまで透けた浴室にこだわるのは、シャワーだけで生活すること人が多いから、使う時間は短くても、日々の生活に少しでも潤いを与えてくれる空間にしたいという欲求の表れなのだろう。

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