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還流独歩

鍋文化と箸 その1 2011.02.08

日本の食文化について、これまで何度か書き留めて来たが、この寒い時期にふさわしい料理となると、やはり鍋を挙げざるを得ないであろう。その種類や多様性、あるいは独創性については多くの方が触れているだろうし、あるいはアジアの鍋についても詳細な調査・研究を行なっている人もいるはずだから、敢えてここで触れる必要はない。

それよりも私の疑問は、欧州にはなぜ食としての鍋文化がないのだろうか。ドイツやオーストリア、あるいは北欧の国は寒いから、鍋料理があっても良さそうなものだが、ほとんど聞いたことがない。チーズフォンデュは鍋ではないし、牛肉を煮込んだハンガリー料理のグーヤーシュ(グーラーシュ)などもあるが、これは鍋を使うだけで鍋料理とは言えない。

その点、スペインのパエリヤ(パエージャ)の方が鍋料理に近いものの、出来上がった状態のものを取り分けるのが基本だから、やはり日本の鍋とは趣が違う。つまり日本の鍋は、出汁を取り始めて、具を入れ、適度なでき上がり具合を確かめながら、互いに取り分けて食べつつ、そこには食を中心とした会話という密な情報交換が加わる。

私はアジアには詳しくないが、韓国にも中国にも台湾にも、同じような鍋文化があるに違いない。それに対し、同じ鍋に入っている食材を皆で取り分けて食べるという文化がほとんどないドイツ。それが皆無かというと、スープなどはあるから、必ずしもそうとはいえないが、家族で鍋を囲む姿を見たこともないし、想像することもできない。

寒い国なのにどうしてなのだろう。スープは取り分けて食べるのに、アジアのように野菜や肉といったものを一緒に煮込んで、そこから自分の分を取り分けて食べる習慣がないというのは実に不思議である。もしかしたらアジアを中心とした箸の文化とも大いに関係している可能性は多分にあるのではないかと思われる。

加筆訂正:2011年2月17日(木)

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