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還流独歩

偶発的出発 2011.03.11

朝3時前、携帯の目覚ましが鳴った。もう少し遅く起きても大丈夫なのだが、移動日は早く起きた方が絶対に良いと身にしみて感じているから、すぐに出発の準備を始める。といっても最初のうちは動きが鈍い。時間が来れば準備は終わるものとわかっているから、慌てる必要はないのだが、いつものように何も用意をしていないので、気持だけは焦っている。

荷物をだいたい詰め込んだあと、書類を整理し、机を並べ直して、床を拭く。出発前の儀式のようなものだ。そして棚の中を整理していると、ここに無事に帰って来れるのだろうか、という思いが頭の中をよぎる。出発まで、少し時間ができたので、いくつか返事を終えていないメールへ返信する。そして6時半、出発。明け方の地下鉄に乗っている人は、みんなとても眠そうだ。

フランクフルト行きの飛行機は、ほぼ定刻に飛んだ。ビジネスクラスは、ほとんど空いているようだ。エコノミーは7割程度の混み具合だろうか。隣りの席が空いているので気分的に楽である。昼の便なので、最初はあまり眠くならなかったが、起きるのが早かったせいもあって、いつの間にか眠ってしまった。目が覚めると、いつものように機内で作業をする。動けない分だけ、不思議と集中できる時間である。

日本で大規模な地震が起きたという知らせは、フランクフルトに到着する少し前に機内アナウンスで聞かされた。ただ、詳細な情報はほとんどなかった。新幹線が少し遅れているので、それを待つ間、空港駅のホームでインターネットに接続してみた。機内で聞かされていた通り、大規模な地震には違いなかったが、それは想像を遥かに超えていた。私が成田空港を出発してから、数時間後のできごとである。

ケルンに戻り、PCを立ち上げると、その画面には驚愕するような画像や動画がいくつも現れた。東北地方の太平洋沿岸は、大変な事態になっている。都内の鉄道も、ほぼすべて止まり、帰宅できない人で混乱しているようだ。どうすることもできない私は、友人や知人の安否を気にしながらも、しばらくことばを失ったまま、画面に写し出される状況を、ただ見つめるより他なかった。

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