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還流独歩

嗜好の変化 その1 2011.03.29

ドイツで生活を始めた90年代後半から2000年にかけて、3年ほど日本に帰らなかったことがあった。帰国する理由が特になかったからだ。私の生活の様子を伺う連絡をたくさんもらったが、大抵の人は、私が普段、何を食べているのかについて訊いて来た。海外での生活が短期間であっても、長期に亘る場合でも、日本人なら食べることに意識が向くのは当然のことだろう。そして、私の食生活が気になるというのも理解できる。

私の食の嗜好をここで書くのは恥ずかしいし、別に知りたいと思う人も少ないと思うが、その頃、食べたいと思ったものは、実に単純な日本食ばかりだった。例を挙げると、冷や奴とか、ほうれん草のおひたしとか、そういった類いのものである。あるいはカツカレーとかが無性に食べたくなったこともある。中華食材店に行けば、豆腐もカレー粉も売っているし、イタリアの食材を扱っているお店には、ほうれん草もある。でも何かが違う。

別に本物を求めているわけではない。ただ、そこまでして食べたいものにこだわる必要もなかった。ドイツの生活を続ける中で、日本にいるのと同じようには日本食が食べられないことなど、私の中では大きな問題ではなかった。もし本当に食べたくなったら、日本料理店に行けば良いだけの話である。無論、安くはないから、日本食のお店に自ら進んで行ったりはしない。むしろ最近では、日本食の美味しさに目覚めたドイツの友人に誘われることが多くなった。

その一方で、上下半分に切ったパンにバターを塗り、そこにハムやチーズ、あるいはサラミやピクルスなどを乗せて食べる典型的なドイツの食事にも慣れた。固くて、踏んでも潰れないような黒麦のパンの美味しさも少しはわかるようになった。美味しいお米でつくったおにぎりにはかなわないけれど、ドイツのパンも、同じ穀物からできているのだから、おにぎりみたいなものだと思って食べれば、何の問題もない。ただ、満足感が得られないだけである。

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