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還流独歩

夏の蝋燭(ろうそく) 2011.06.22

一か月程前に、東京に戻ったときの感想として、まず最初に「無駄な節電」について書いた。本文にも書いたけれど、節電を批判しているわけではなく、節電のやり方に、もう一工夫合っても良いのではないかと思ったからだ。でも東京で、いろいろな方と話をしてみると、そこには「皆で一緒に一律の節電を行なうべきだ」という暗黙の雰囲気があるという。しかも、これから夏の需要増加に向けて、いまから対策を施しておく必要がある聞いて、確かにそれも一理あるかと思った。

ところでいま、日本の企業で、就業開始時刻を早める動きが出ている。実際、すでに始めた会社もあるようだ。日本も夏時間を採用するというようなことが取り沙汰されてはいるが、個人的には、日本には向かないのではないかという気がしている。やってもいないのに、否定的な意見を書くのは失礼なのだが、時間に厳しい人が多い日本だから、夏時間を採用すると混乱することに我慢ならない人も出て来るのではないかと思う。時間をずらすということは、おおらかな気持がないと受け付けない気がするのである。

それを考えると、各企業が独自に就業時刻を早めるという方法は、そう難しくはないし、意外と面白い試みではないかと思う。ただ、東京などは通勤時間が長いから、始業開始が早くなると大変な人もいるとは思う。その一方で、時間を早めた時差通勤のようなものだから、早起きにさえ慣れてしまえば、それほど苦にならないかもしれない。しかも、残業さえしなければ、夜が少し長くなって、逆に生活にも余裕が出たりすることも考えられるだろう。

それで話は節電に戻るのだが、夏のこの時期に、ろうそくを灯してみるのも悪くないと思っている。ドイツは日が長いから、夜になっても照明が不要とはいえ、暗くなったら電気をつけるというのではなく、ろうそくの灯りで生活するというのは、夏らしい情緒を与えてくれる気がするのである。その雰囲気を出すためには、当然テレビは消して、補助用の白熱電球を一つくらい灯せば良いのではないだろうか。何も一つの照明で部屋全体を均一に明るくする必要もないだろう。

世の中では、LED照明が取り沙汰されている。節電のためには効率の良い照明器具を使うことが求められるが、それは同じ照度で比較するからだ。だから、均一な照度を求めるのでなく、小さな点光源をいくつか配置して、明るさそのものを落せば電力消費は少なくとも下がる。それから照明は、つねに天井から下方向に照らせば良いというものではない。光源が直接見えてしまうと、明るさの強弱が大きくなり、弱いところは暗く見えてしまうから、逆に下から天井を照らすような間接照明を使って、部屋全体を柔らかく映し出す方法だってある。

照明器具を効率の良いものに変えることで節電できるのはあたり前のことだ。でも、わずかの工夫で、部屋の中の照らし方を変えると、照明用の電力消費も落すことができるだけでなく、違った雰囲気も発見できるのではないかと思う。何度も書いたように、均一の明るさだけが豊かさではない。明るいところと陰の部分があってこそ、その空間に奥行が生まれ、落ち着いた雰囲気を出すことにつながるのではないだろうか。ほのかな光は、人間の心に柔らな気持を生み出すようにも思う。

夏の夜に揺れるろうそくの火というのは、冬の暗い時期とはまた違った趣がある。家の中の照明をすべて消して、ろうそくだけに頼るというのはあまりに暗過ぎだから、他にいくつか補助照明を使って適度な明るさをつくりだそう。それくらいのことは十分可能に違いない。暗いことは貧しくも不憫でもない。電力だけが明るさを確保してくれるわけでもない。ろうそくやランプといったものは、照明器具に比べたら暗いけれども、逆に心を明るく照らしてくれる気がするのである。

加筆訂正:2011年6月23日(木)/6月26日(日)

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