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還流独歩

住宅の形態と断熱 その1 2011.07.07

昨日と一昨日の件に関して、誤解を招かないように補足しておきたいことがある。まず、論点が建築と断熱ということであって、日本が脈々と繋いで来た木造の伝統的建築を否定するものではないということである。国宝級や重要物文化材として残されている社寺建築はもとより、武家屋敷や、書院造りを巧みに昇華させた数寄屋造りの完成度は、ことばに尽くせない程、素晴らしい建築文化を引き継いでいると思う。

その研究をしているわけではないので、間違っているところもあるかもしれないが、この数寄屋造りは、日本人の心のどこかに郷愁のように残っているのではないかと思う。だからこそ、日本の住宅のデザインは、良くも悪くも、それらを模倣し続けてきた。尺単位で折れ曲がる外壁や、幾重にも重なる屋根、一階部分を広くし、二階は一階の一部だけを乗せたような形態は、おそらくこれからも続いて行くだろう。

日本に戻って成田空港からの電車に乗り、沿線の家々を見ると、外壁に凹凸の変化がある住宅が目につく。簡単に言えば真四角ではなく、外壁の一部が幾重にか張出した部分が連続する平面構成になっている、とでも言い換えた方が良いかもしれない。それは約30cmを単位とする木造建築の成せる技であり、昔の人は、この外壁の襞(ひだ)と、屋根の棟(むね)と谷が連続するところに美しさを見いだして来たのではないだろうか。

そう思えるほど、電車から見える住宅は四角でありながら、完全な長方形ではないし、いわゆる総二階ではなく、二階は一階よりも小さい。しかし、その姿は都心に向かうに従って少しずつ変わって来る。街の密度が増すにつれて土地も次第に小さくなるから、十分な居住面積を確保するためには、総二階に近い形態をした住宅が必然的に求められる。もはや数寄屋造りに哀愁を感じている場合ではない。

そう考えると、日本では、土地の広さによって、住宅の形態が異なるのである。ごくあたり前の話かもしれないが、敷地が広ければ、居住空間を求めて上に伸びる必要はない。その究極の形が平屋であろう。土地が少し小さくなれば、平屋の一部に二階が組み込まれ、敷地がさらに小さくなれば、住宅は容積率を上げる方向で対応するしかなくなってくる。つまり一階と上階の面積が近づいてくるのである。

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