理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

月曜は午後から始業 2011.09.26

オランダの西のはずれに位置する「Middelburg/ミデルブルク」という街を、これまで何度か訪れたことがある。小さいけれど、街の中央にある広場には歴史ある立派な市役所が聳え、市街地に入り組んだ運河の周囲には、瀟洒な建築が連なる落ち着いた雰囲気を持つ典型的なオランダの街の一つである。デルフトやマーストリヒトなどと比べても、あまり有名でないところがまたいい。

この街の美しさ伝えるには写真が最も有効だが、例えば、歴史や文化といったことは、その空間に身を置いてみないとわからないという一面が必ずある。だから、画像や動画だけですべてを知ることはできない。いまやインターネットが幅広く普及し、海外の情報は簡単に手に入るようになったけれど、画面をいくら覗き込んだとしても、旅行そのものを体験することは絶対にできない。

ところで、このミデルブルクの街を散策しているときに気がついたことがある。中心部にある商業店舗の営業開始時刻をよく見ると、月曜の営業開始時刻が午後からになっている。調べてみたら、本屋さんも花屋さんも、お土産屋さんも、月曜の営業開始が12時半とか、13時なのだ。街中のお店を調べた尽くしたわけではないから、すべての店舗が該当するかはわからないが、これはある意味、画期的である。

週の始めは、朝起きるのは億劫だし、張り切って元気良く仕事に行ける人はそれほど多くはないと思う。もし、出社が午後からだったら、かなり嬉しいのではないだろうか。おそらく、それはそれで意外と辛かったり、面倒なことが生じる可能性もあるが、週末の間に少しボケた身体には、月曜の遅めの出社は確実に有難いはずだ。いまにして思えば、できれば一度くらい、やってみたかった気もする。

話は戻って、これも調べ切れていないので憶測の範囲でしかないが、ミデルブルクの商業店舗は、土曜の営業時間が、確か14時とか15時までといった午後の早めの時間には閉店だったような記憶がある。つまり、月曜の開店を午後からにすると、完全週休二日制とほぼ同様で、約二日間の休みが取れる。休みが、半日、一日、半日という変則になってしまうものの、 店舗で働く人も、週末はしっかり休めるのである。

オランダの他の街も同じかどうかまではわからないが、この変則週末は、実にオランダ的合理性を持っているように思う。最近、営業時間が長くなる傾向にあるドイツでは、まず考えられないだろうし、日本では、おそらく頭に「絶対」がつくくらいあり得ないだろう。飲食店以外の文房具店や菓子店、その他の個人経営のお店が、月曜の午後から開店となると、確実に怠慢だと言われるに違いない。

オランダは小さな国の一つだから、各都市の距離はそれほど離れてはいない。ミデルブルクも、世界最大の港湾都市の一つであるロッテルダムかも、わずか60km程度しかないが、北海に面した半島のような場所に位置しているし、洪水との戦いが最も激しかったところの一つだから、おそらく住んでみないとわからないような独特の慣習や文化が残っている可能性はあるだろう。その一つが、「お店の始業は月曜の午後から」なのかもしれない。

オランダにはたくさんの瀟洒な街があるが、その中でも時間がさらにゆったりと流れているこのミデルブルクを訪れてみる価値は十分にあるのではないかと思っている。

« »