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還流独歩

別れは短く出会いは長く その1 2011.12.01

今週の月曜のことになるが、ケルンで13年近く生活していた友人が田舎に帰ることにしたというので、部屋の後片付けを手伝いに行った。この話は一か月くらい前に、ケルシュビアを飲みながら聞いていた。月曜は週始めだし、原稿の締切が気になったので、どうしようか悩んだが、8年ほど前に知り合ってから、ことあるごとに色々と支えてくれた友人だから、お別れの記念にでもと思って彼の自宅に行った。

荷物のほとんどは、もう実家に運んだというので、部屋には大きな家具類は何も残っていなかった。何を手伝うのかというと、内部の壁塗りである。特に問題なのは台所だった。引越して来た日に、私も知っている共通の友人が泊まりに来て、翌朝に事件は起きた。その彼が直火式のエスプレッソマシーンを使ってコーヒーを沸かしていると、火山の噴火のようにコーヒーがいきなり噴き出して、台所の壁の半分が茶色になってしまったのだ。その話を聞いたときには大笑いしたが、今日は笑えない。

作業の前に、遅い朝食を摂る。といっても、近くのパン屋で買って来たパンを半分に切って、バターを塗り、そこにチーズを乗せて、さらに辛しを塗っただけの簡素な朝ご飯だ。でもこれがなぜか妙に旨いのである。ドイツにいると、日本食が食べたくなるときも多いのだが、パンとチーズの組合わせもなぜが捨て難くなる。日本人の口には合わないと言われることが多いかもしれないが、美味しいく感じるものは、単純に旨いのである。

話を戻そう。壁塗りを始める前に必要なことは、まずは養生テープを貼ることである。実際にやってみればわかるが、塗ってはいけない部分を保護するためのこの作業は極めて重要なのだ。天井、窓や扉の回り、幅木部分など、色がついてはいけない部分を保護するためにテープを貼ることは、実に地味なことなのだが、作業を円滑に進めるためには、この養生テープ貼りをしっかり行なうことが求められるのだ。

そしてようやく壁塗りである。壁に塗る色は白。まずは刷毛を使って壁の端部から取りかかる。塗るのは楽しいのだが、床に塗料が落ちてしまうのが厄介だ。だから段ボールを床に敷いておかなければならない。塗る位置を考えて、少しずつ段ボールをずらして行く。いまの壁に上塗りしても色の違いはほとんどわからないので、刷毛を使ってとにかく塗って行く。しかし問題は、やはりコーヒーが染み付いた部分だ。上塗りすれば、最初は隠れるのだが、しばらくすると、また染み出て来てしまう。

壁の角の部分は、なんとかごまかせるのだが、大きな面はローラーで塗る方が断然早いし、しかも厚く塗れる。これでもかとローラーを上下左右に動かして塗りまくるのだが、しばらくするとコーヒーの茶色が浮き出て来る。実にしつこいコーヒーだ。私には何の責任もないのに、じわじわと染み出て来るのを見ると、壁を汚した当の本人がやるべきことではないかと多少の愚痴の一つも言いたくなるが、そこまで責めるほどのことでもないだろう。一旦、乾かして様子見である。

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