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風邪気味デンハーグ その2 2011.12.12

新幹線は何ごともなかったかのようにオランダに向けて走り続ける。向かいの女性はデュイスブルクで下りて行き、4人掛けの席は私一人になった。進行方向に向かって座りたくなったので、反対側の席に移る。次のオーバーハウゼンから別の女性が乗ってきた。ようやく車掌が来て、切符を確認して行く。その女性は流暢なオランダ語で車掌と話をしている。

通路の反対側に座っている女性が、私の前のオランダ語を話す女性に声をかけた。「もし良かったらオランダ語を教えてもらえませんか?」。「ええ構いませんよ。ただ、私にわかるかしら…」。ドイツ語の単語や表現をオランダ語ではどう言うのかというような質問だった。一つ前の席の男性もそれに反応するあたりが面白い。車内語学学校である。

そんなやり取りが続くうちに、ICE新幹線はウトレヒト中央駅に着いた。予定よりも1時間10分の遅れである。時刻表を見ると15分待ちでデンハーグ行きがある。それに乗ろうと思って地下の連絡通路を移動していると、別のホームにデンハーグ行きとの表示が出ている。出発は5分後だ。しかもスプリンターと表示が出ているから、こちらの方が速そうだ。

時間通りに出発した特急は、予想外にも次の駅で止まった。ここから先の停車はないだろうと思っていたら、その次の駅にも、さらにその先の駅にも止まった。これは特急なのだろうか。スプリンターという表示は、一体、何だったのだろう。それから急に眠気が襲って来たので、車内でほんのわずかの時間、仮眠を取った。こういうときの電車の揺れというのは実に気持が良いものである。

デンハーグに着いたのは15時前であった。この街は駅の周囲に超高層建築が聳えていて、かなり無機的な印象を与えている。駅を離れて歩き出すと冷たい風が押し寄せて来る。少し歩くと市役所があったので、少し暖まろうと中に入ってみた。巨大なアトリウムの1階に窓口が並んでいる。日本の市役所とは大違いである。あとからわかったのだが、どうもリチャード・マイヤーが手がけたらしい。

そこから少し歩くと典型的なオランダの街並へ入る。寒気を少し感じるが、体調もそれほど悪くないので、あてもなく市内を散策する。初めてオランダに来たときには、それなりに気持が高ぶっていた気もするのだが、通りの看板も普通に読めるし、大抵のオランダ人はドイツ語が話せるから、もう何の緊張感もない。ドイツと似ているとはいえ、それでもずいぶん違う環境に身を置く楽しさがある。

そのまま友人宅に行こうかと思ったが、折角なので、市立博物館に行ってみることにした。路線図で確認して、市電の17番に乗る。車両はとても古いのに、行き先を示す電子表示器は最新型だ。ほとんど人がプリペイド式のカードを持っており、乗降するたびに、出入口の脇にある機械にあてている。そんなものは持っていない私は運転手から現金で切符を買った。2.50ユーロである。結構高い。

オランダの落ち着いた美しい街並が続く中を、市電は車輪を軋ませながら、時折、左右に大きく揺れつつ、ゆっくりと進んで行く。知らない街を市電の中から眺め、乗降する人たちを何気なく観察することは、私にとって貴重な時間の一つだ。窓周りの装飾が美しい。10分ほど走って、市立博物館脇の停留所に着いた。17時の閉館まで1時間しかない。

モンドリアンの作品を多く集めたという市立博物館は予想以上に大きかった。上下階を結ぶ階段室に平面図が掲げてあり、いまどこにいるのかが把握できるようになっているのだが、図が平面ではなく俯瞰図になっているのと、部屋数が有り過ぎて、一歩、展示室に入ると方向がわからなくなるのだ。だから何度も同じところを通ってしまう。

それはさておき、ピカソやモネ、ウォーホール、カンディンスキーなどの有名な芸術家の作品がいくつもの部屋に展示されていて、見応えは十分だ。私は芸術には詳しくないが、考えて見るものではなく、感じるものだから深く悩む必要などない。1900年から1960年までのパリの芸術に関する部門もなかなか興味深い。

もっとゆっくり見たかったが、閉館時間も迫って来たし、1時間も見ていると結構疲れてしまうので、17時少し前に博物館を後にする。外はもうかなり暗い。来たときと同じ17番の市電に乗り市内へ戻る。友人宅へは、4番か6番に乗り換えないといけない。停留所の路線図を見て、おおよその見当はつけたが、自分でもかなり大雑把な行動である。

何となく、このあたりで下りれば良さそうなところまで戻って来たので、そこで下車する。人通りの多い通りがあったので、そこを抜けて行くと別の市電が走っていそうな通りがあるはずだ。でもそんな感じでもなさそうだ。ともかく300mほど先まで歩くと広い通りに出た。そこでわかったのだが、市電は地下化されていたのだ。なるほど…。
 
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