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還流独歩

そして姫路へ その2 2011.12.25

10分ほど歩いて目の前に現れたのは「魔尼殿(まにでん)」である。見上げるほどの高いところに建つこの建築は、岩山の中腹に建設された典型的な舞台つくりで、それは一旦、坂道を下って来た人を圧倒するだけの威厳ある風格を持っており、随所に日本建築の美しさが滲み出ている。これを見るだけでも十分な価値があると思う。山道を抜けて、境内の奥にある三つのお堂へ向かう。「大講堂(だいこうどう)」、「食堂(じきどう)」、「常行堂(じょうぎょうどう)」は、魔尼殿と並んで、書寫山の中でも、特に見応えのある建物だ。

食堂(じきどう)の開口部は、正面に向かって右側にある引戸の入口以外、すべて蔀度(しとみど)だけで構成されており、実に圧巻である。よく見ると、その開き方向は、一階が内側で、二階は外側だ。回廊を巡ると、隣りに建つ常行堂の屋根が圧倒的な力強さで迫って来る。中にいた男性によると、もう少し離して建てる予定にしていたものの、おそらく敷地か何らかの理由で、近づけざるを得なかったのではないかということである。他にも映画の「ラストサムライ」の撮影のためにトム・クルーズが来たということを教えてくれた。机にはそのときの色褪せた写真が何枚か置いてあった。

境内はあまりに広く、他にも重要な建築はいくつかあるが、この4つの堂を見るだけでも十分だ。深い森に抱かれた中に慎ましく点在し、そしてしなやかに見えて力強く、しかも凛とした雰囲気を持つ日本建築の姿は実に荘厳で美しい。「比叡山」「大山」と並ぶ、天台宗の三大道場の一つであるこの書寫山には、平安期から守り継がれた歴史の重みと、深い信仰心による祈りの世界が広がっている。その昔、ここで学問を行い、そして生活をしていた僧侶たちの姿までは見えることなどないけれども、ここがその聖域であったという雰囲気は十分に感じられる気がするのである。

青空が見える合間に粉雪が舞う寒い日だったが、ここを訪れることができ、極めて貴重な体験をすることができた。しかもロープウェイが運休ということで、自分の足で登る機会を得られたことも良かったのかもしれない。気温が低く、一時間半ほどの滞在で身体が冷えてしまったが、気持は高揚したままだった。帰りは、汗をかきながら登って来た「東坂」の反対側にある「西坂」を下る。ここは車が通れる道が整備されているが、普通に歩いていても、足が止まらないくらいの予想外の急坂であった。歩き慣れている人でも、膝への負担が相当あるから、ここは本当に気をつけるべきだろう。

兵庫県立大学姫路書写校の脇を抜けてバス停へ行く。そこで足を返して靴底を確かめて見てみると、どうやら相当減ってしまったようだ。間違いなく、上りの岩盤階段と、下りのコンクリート舗装を歩いたせいだろう。もう一度、書寫山に来ることがあるかどうかはわかないが、今度はロープウェイを使おう。森の中に点在する日本建築を見た時間はそれほど長くはなかったが、英気を養うことができたように思う。偶然にも訪れることになった姫路には、もう一つ、世界遺産として認められた国宝の姫路城がある。それを見るのも楽しみである。

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