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還流独歩

姫路城の保存修理 その4 2011.12.29

そして私が感じた点を、もう一つだけ敢えて付け加えさせてもらうと、姫路城から見える市内の街並の乱雑さが残念でならない。大切なのは姫路城であって、市内の建物がどのように建てられるかは関係ないという意見が多数を占めるとは思うが、私は違う意見を持っている。修復中の城を見たあとに、こんな白けたことをいうのは大変に失礼なのだが、世界的にも稀に見る文化遺産を持っている街だからこそ、姫路城に敬意を表して、高さ制限を設けるくらいの取組みがあっても良いのではないかと感じるのである。

日本は土地が最優先の国だし、建築基準法の確認申請が通れば、どのように建てても構わないのは事実だ。建築主が、自分の土地を最大限に利用したいと望むのも当然であり、それに異議を唱えることは極めて難しい。だから、自宅や事務所から、いままで姫路城が見えていたのに、その前に高い建物が建って城が見えなくなるということは、おそらくかなりの頻度で生じているはずだ。特に商業地域などでは、大型の建物を建てるのがあたり前の状況だろうし、ましてや、市内のどの建物からも姫路城が見えるようにすることなど不可能である。

それを承知の上で言いたいことは、あくまでも仮定の話だが、市内の建物の高さは、姫路城の高さの3分の1までとするといったような制限を設けても良いのではないだろうか。大天守の高さは100m程度と聞いているので、この場合、約30mとなる。通常の建物だと、10階分の高さに相当する。それでも十分に高い。姫路市には失礼だが、そんなに高い建物が姫路には必要なのだろうか。姫路城から見ると、駅前に建つ高層建築の高さが歪(いびつ)に見える。世界的遺産がある街は、それに合わせて都市計画を考えてもらいたい。個人的にそう強く思うが、どうだろうか。

失礼なことを書いてしまったので、そのお詫びの気持も込めて、姫路市に代わって、一つだけ宣伝しておこう。今回の修理工事を、観光客や一般の人に対して広く公開するという逆転の発想をした姫路市の取組みが評価され、大天守修理見学施設である「天空の白鷺(しらさぎ)」が、全国産業観光推進協議会主催の「第5回 産業観光まちづくり大賞」において、最高賞の金賞を受賞したそうだ。どれだけ権威のある賞なのかはわからないが、実際に見学してみて、非常に勉強になったし、良い意味で裏切られたという気持があるから、金賞に相応しいのではないかと思う。

そして最後にもう一つ付け加えておくと、築城以来、いままで一般の人が立ち入ることができなかった「リの一渡櫓(いちわたりやぐら)」を特別公開しており、その構造や、昭和の大修理の際に発見された旧い瓦の他、今回の修理工事で大天守大屋根から降ろされた鯱瓦(しゃちかわら)も見ることができる。なお、姫路城の見学は、現在、インターネット上での事前申込が必要だが、実際には、直接行っても問題なく入れるようだから、これはもはや、姫路に用事が有るなしに関わらず、是非、修理工事を見に行くべきだろう。生きているうちに見ておいても決して損はないと思うのである。
 


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