理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

保温の効果 その4 2012.02.16

住宅というのは、竣工してから、どのように使うかということが極めて大切になって来る。中に住む人間が、積極的に住まいに関わり、家との付き合いを増す必要があると思うのだ。家はまったく動かないけれども、人間は動くことができる。パッシブ建築と呼ばれる建物の中では、人間がアクティブに動くべきなのだ。それを継続することで、自ら建てた住まいとの結びつきが徐々に強くなって行く。だから、家をどう使うのかというのは、とても大切なことだし、使い方のことも考えた設計というものが重要なのだ。それをつねに考えることは難しいけれど、できる限りのことはしたい。

今回、保温の効果というものが、どれだけ心地良いかということを、改めて身を以て体験することができた。そして、ここでも何度も書いて来たように、日本の夏は暑いけれど、冬は逆にしっかり寒いということだ。特に今年は例年になく寒い日が続いているから、暖房をまったくしていない建物など、ほとんどないのではないだろうか。日本は暖房主体の国だと言い切るのは大袈裟かもしれないが、実はそうなのではないかとさえ思えて来る。そして、寒い家と暖かい家のどちらに住みたいかと問われたら、ほとんどの人が後者を選択するに違いない。

恩師の宿谷先生が、客員教授としてデンマーク工科大学へ招かれたときに体験したことを、次のように語っている。「暖かくて快適な住空間が保証されているからこそ、寒い冬にでも散歩に出かけられる」。ドイツの人も北欧の人たちも、散歩が趣味なのかと思うくらい、夏も冬も外に出て、家族や愛犬と何時間も散歩を楽しむ。お金もかからず、健康に良く、自然に触れながら四季の移ろいを感じられることは、人生の中の豊かさの一つだと感じているようにさえ思えて来る。そして、厳冬期にも外に出ようとするのは、家の暖かさと関係があるのではないかという指摘は、確かに的を得ているようにも思う。

今回、感じたことは、あたり前かもしれないけれど、暖かさというは豊かさの一つに違いない。しかも、その豊かさを低燃費で得られることがいま、強く求められていると思う。だから、いままでしつこく言って来た「断熱」という表現を使いつつも、これからは家全体を「保温」すると言い換えて、その大切さを、いろいろな方法で発信しながら、一つ一つ実現して行きたいと思っている。その道のりはおそらく長いけれど、それをやり続けるしかないのだろう。寒さのない温かな空間に身を置きながら、やるべきことは、まだまだたくさんあると感じたのである。

« »