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還流独歩

質問を受けた日 その1 2012.08.06

ドイツに渡って、本格的にドイツ語を習い始めた頃、ある質問を受けた。それは1998年の8月6日であった。

その日の朝、スペインから来た同じクラスの女性が何気に質問してきた。「日本の人なら、今日は何の日か知ってるよね?」。突然訊かれても答えに窮してしまう。今日は何日だったか…と思い出そうとする私に向かって彼女は言った。「広島に原爆が落とされた日よ。知らないの?」。事実ではあるが、重い問いかけである。いまにして思えば、彼女は朝のテレビを見たか、あるいは新聞を読んでから学校に来たのかもしれない。

そのあと、今度は中国の女性から次の質問が浴びせられた。「戦争中、日本が中国にしたこと、あなたは知ってるかしら?」。学校では習わない昭和史については、関連する書物も読んできたつもりだし、ある程度は答えられる状況ではあった。日本を離れるにあたって、そういったこともあるだろうと考えていたから、日本の過去については、浅学ではあるものの、それなりの私見を述べた。

彼女は、私が自分の意見を含めて答えたことに対し、少し驚いた様子であった。そして質問は続いた。「日本では、戦争のことは学校で習わないと聞いたけれど、あなたはなぜ知っているのですか?」。「習わないからこそ、自分で本を読んだり、調べたりしたんだよ。日本の人もいろいろだから、国の対応と個人の意見が大きく異なることは決して少なくないと思うよ」。眼鏡の奥の目を吊り上げるかのようにして訊いてきたその若い女性は急に静かになった。

この話を書くと、嫌悪感を示す人がいると思う。しかも私にとって、誰もが見ることのできるこの場において、こういったことを書くのは危険過ぎるかもしれない。それは言うまでもなく、日本人の特に昭和に対する対外的歴史観は人によって大きく違うことが多いからだ。でも良く言われるように、海外へ行ったときに嫌がられることは、自分の意見を持たないことである。大袈裟に言えば、口論になっても良いから、自分の考えを示すことが極めて大切なのだ。

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