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還流独歩

鞄落下 2012.08.09

先日の話だが、地下鉄に乗って、ノート型のPCを開いて作業をしていたら、上の棚から鞄が突然落ちてきて、ものすごく驚かされた。さすがに声までは出なかったが、近年、稀に見る不意打で、一瞬、息を飲み込んだまま固まってしまった。幸いにもPCが壊れることはなかったから良かったものの、モニターが逆方向に曲がって壊れたり、画面が割れたりすることだって十分に考えられる状況だった。

ともかく、落ちてきた鞄はそれほど重くはなかったようで、当ったPCにも問題がなく安堵したのだが、さらに驚いたのは、鞄の持ち主が私に何も言わないことであった。最近でこそ気が長くなった私だが、さすがに一言あっても良いのではないかと思い、下からその男性を見上げた。そのときの私の顔は、おそらく相当な怒りの表情をしていたと思う。「あの…」と言いかけたとき、小声で「すみません」と返してきた。どことなく仕方ない感じの言い方だった。

私が逆の立場であれば、おそらく平謝りをして、まずはPCが壊れなかったかどうか確かめると思う。でも、その男性は特に何もせず、何ごともなかったかのように立っている。行き場のない気持が渦巻いたままの私に、隣りに座っていた男性が「何もなくて良かったですね」と言ってくれた。「あ…、はい」。同情してくれたにもかかわらず、私は無愛想な返事をしてしまった。鞄を落した男性は、二つくらい先の駅で降りて行った。

それにしても、PCが壊れなくて本当に良かった。万一、使えなくなってしまったら、一体、どうなっていたのだろう。それ以来、荷物を網棚に上げる人が前に来ると、この事件が頭を過(よぎ)って、落ち着かなくなるのである。逆に自分が同じ立場になるかもしれないから、くれぐれも気をつけようと思うのである。

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