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還流独歩

夕張と石炭 その3 2012.12.25

その一方で、石炭がまったく使われていないかというと、世界的に見れば、その産出量は増えている。発電するにしても、石炭をガス化した複合発電技術も開発されているから、石炭は完全に見捨てられたわけではないようだ。石油に比べれば扱いにくいかもしれないが、その良さが、もっと見直されるべきなのかもしれない。黒いダイヤと呼ばれた時代は過ぎ去ってしまったけれど、見方を変えると、燃える石というのは、新たな魅力を持っているとも言える。

ちょうど石炭から石油へと移行しつつあった子供の頃を想い出してみると、まだ北海道のどこの家にも石炭ストーブか、薪ストーブがあった。家の裏には石炭小屋があり、薪を置いておく場所も決まっていた。そういえば小学生の頃は、よく薪割りをさせられていたものだ。田舎の風呂は、確か石炭か薪で沸かしていた。学校の暖房も石炭か練炭だったし、ストーブの上には「蒸発皿」が置かれていたことを想い出す。私はそんなことを体験した最後の世代だと思う。

いま、暖房として、ペレットストーブや薪ストーブを使う家も多い。手間は多少かかるけれども、家の中に炎があるというのは、素敵なことだと思う。熱源というと少し硬い表現になってしまうが、何かが燃えることによる暖房効果というのは絶大で、断熱がしっかりしていれば、家の中全体を温めることができる。もはや見かけることがなくなった石炭ストーブだが、そんな暖房方法が見直されても良いのかもしれないと、雪に埋もれた夕張の街を見ながら考えた。

石炭を使った暖房は、現実的ではないかもしれないけれど、強力な熱源と熱容量のある建築部材を合わせると、新しい暖房方法に対する新たな示唆が得られるかもしれないとも思う。それは決して昔に戻ることではない。最新の技術によって見失ってしまった基本的なことを、もう一度、検証してみることで、埋もれていた「気づき」というものが現れてくるかもしれない。

そして暖房だけでなく、冷房方法についても、どうあるべきか、これからもいろいろと考えていきたいと思っている。

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