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還流独歩

足場設置の後日談 2013.01.10

昨日のことである。先日の日曜に足場を設置していた現場の脇に、コンクリートミキサー車と高圧ポンプ車が横付けされ、7階あたりの窓から建物内に圧送している光景を見かけた。既に日付が変わっている。どうしてこんな時間に、しかも室内にコンクリートを流し込むのか、まったく理解できないので、警備の人に訊いてみた。先日の騒音のときに話しかけた人と同じだった。結局のところ、深夜に行なわれているその工事は耐震補強だったのである。

ようやく納得が行った。その建物では、平日の昼間は通常通り業務を行なっているため、耐震補強の工事は夜間にしか行なえないというのである。例の日曜の深夜における足場設置も、その工事のために設けられたものだったのだ。他にも、ここ一年くらい、深夜になってから、工事車両のような車が近くに何台か止っているのを見かけたが、いずれもこの工事に関わっているに違いない。

建築構造というのは人の命を預かることでもあるから、耐震補強を行うことに対する疑問の余地はない。先日、苦情のようなことを言ってしまったが、そういう背景があるとは知らなかったから、少々反省をした。それにしても、こういった工事を夜間に行なわなければならないというのは、軽い表現で申し訳ないが、実に大変なことであろう。工事もさることながら、警備もしなければならず、それに必要な費用というのは相当な額になるだろう。

優しそうな感じの警備員さんは、「例の騒音の件、伝えておきましたから」と言ってくれた。現場監督には直接会ったから、そんなに気にしなくても良いのに、ちょっとした気遣いを受けて、何だか申し訳ない気持ちになった。それと同時に、私には関係ないとはいえ、こうやって真夜中に働いている人に感謝しなければならないとも思った。人が寝ているときに、寒風の中、警備をするのは身を削るような辛さがあるのではないか。そんなことも考えた。

時折聞こえて来るコンクリートをはつる音が、冷たい都会の空に吸い込まれて行く…。

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