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還流独歩

ろうそくの炎 2013.03.03

そういえば、今日はひな祭りである。それとは全然関係ないが、最近になってまた、打合せ机の上に、ろうそくを灯すようになった。もちろん、仏壇にあるような細いろうそくではなく、平たい小さなガラスの容器に入れて使う、卓上用の小型のものである。

マッチを擦って火をつけると、それだけで何だか緩やかな雰囲気が醸し出されるように感じられる。それと同時に、時間の流れが緩やかになる気がするのだ。ろうそくの光に照らしだされた空間には、独特の時間が生まれるのだろうか。

外出したり、人に会ったり、現場に行ったりすると、多少なりとも緊張感のある時間を過ごすことが多いが、帰って来て、ろうそくに火をつけると気持が一気に穏やかになる。そして、小さく揺らめく炎を見ると、段々と気持が落ち着いて行くのである。

ろうそくの火というのは、不思議なことに、いろいろな記憶を呼び起こしたり、あるいは、普段、見つめることのない、内面の自分を引出してくれたりするのかもしれない。それと同じように、むせ返るような暑い夏の墓地で、陽炎(かげろう)ををつくりながらゆらめくろうそくもまた、いつかどこかで感じた遠い郷愁を呼び起こしたりもする。

ろうそくの炎というのは、いつもはどこかに仕舞われてしまっている人間の記憶の引出しを開いてくれるのかもしれない。

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