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還流独歩

羽田からドイツへ その2 2014.06.16

出発までは、滞っている作業を行なった。といっても、ごく簡単な翻訳や、持参した図面の確認である。周囲にいる人たちは、ブラジルで始まった蹴球の祭典の日本対コートジボアール戦を見ている。本田が得点して、1:0と善戦しているが、果たして勝てるかどうかはわからない。後半に入り、しばらくしてから失望にも似た声が2回聞こえた。

出発前に、両親に電話したところ母が出た。今日は父の日だから、電話の一本でも入れておこうと思っただけのことである。あいにく父は、パークゴルフに出かけていて不在だという。あと一時間ほどしたら戻って来ると思うというので、宜しく伝えておいてくれと頼んだ。

それから1時間ほどして携帯電話が鳴った。父からの返信だった。何でも、40人近くが参加したパークグルフの親睦大会で優勝したという。半分遊びの延長とはいえ、一番の成績を上げるというのは、なかなかできるものではない。父の年齢を考えると、周囲には身体が思うように動かない人がたくさんいることを思えば、実に幸せなことである。

搭乗開始の知らせは、出発時刻の20分前だった。すぐに行っても、搭乗口にはいつものように人が並んでいるのだろうと思い、少ししてから向かうと、私の名前を呼びながら前方から女性の地上係員が小走りに駆けて来るのが見えた。私は軽く右手を挙げて自分であることを示した。少し先の搭乗口に着くと誰一人としていなかった。

こんなときに冗談を言うのも失礼なのだが、「私の席はまだ残ってますでしょうか?」と真顔で訊いてみた。その女性は「ええ…大丈夫だと思います…」と答えてくれた。実に下らないことを質問してしまったのだが、さらに余計なことに、私が最後の一人なのかと訊いてみたら、他にもまだ何人かが搭乗を済ませていないという。

掲載日:2014年8月20日(水)

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