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朝日新聞 住まい/世界のウチ

家より広い屋上テラス 2005.08.20

友人の家のテラスは異常に広い。これはいままで見た中でも最大級だ。しかも位置しているところが5階建ての集合住宅の最上階だから、庭に面した普通の地上にあるテラスと違って空が一段と近く感じられるし、開放感と眺望の良さは抜群この上ない。部屋探しのときに、素敵なバルコニーのある部屋を見つけようと躍起になることの多いドイツの人にとっても、この屋上テラスは確かに圧巻である。

友人が正確な広さまでは分からないというので、彼と一緒に測ってみた。奥行きが約17メートル、幅は場所によって異なるが広いところで4メートルある。簡単な図面を書いて面積を計算してみたら、ちょうど50平方メートルだった。だから家より広いというのは言い過ぎだけれど、彼の誕生日に招待された約80人がこのテラスに集まったときにもまだ多少の余裕が感じられたし、これなら小さなカフェやビアガーデンさえも開けそうだ。

その広さの秘密は、この集合住宅が中庭方向に向かって長く張り出したL字型をしているからである。その縦長部分の最上階がこの屋上テラスだ。またL字型の底辺にあたる部分は屋根裏部屋のある2階建て(メゾネット)になっていて、その屋根裏に設けられた大きな窓が屋上テラスへと続いている。

日本よりも湿度が比較的低いドイツの夏はさわやかで過ごしやすいから、こんなに大きな屋上テラスがあれば休暇に出かける必要もないくらいだが、年によっては冷夏などで夏を十分に満喫できないまま秋を迎えてしまうことも多い。だから、わずかの時間でも夏を感じとることのできる屋外空間は非常に貴重なのだ。

どんなに小さなバルコニーでも、青空の下にしゃれた日傘を立てると、どこか避暑地にでも出かけたような雰囲気さえ漂ってくる。食卓が置ける大きなバルコニーがある家庭では、そこでゆっくりと食事を楽しんでいる風景なども良く見かける。読書をしたり、手紙を書いたり、日の長い夏の夜にはビールやワインを片手に夕涼みをしたりと、普段の生活に小さな潤いを与えてくれるバルコニーが果たす役割は絶大だ。

ところでこの屋上テラスだが、開放的な屋外空間をより満喫するためには、やはりケルシュビア(ケルン地方のビール)は欠かせない。夏の澄み切った空の下、このテラスで太陽を浴びながらケルシュビアをぐびぐび飲むと、自分の家でもないのに優越感に浸ってしまう。友人に頼み込んで、今度は寝袋持参で行こうかと思っている。

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