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対談

第1回 門型の家と僕らの宿谷研究室 2009.08.08

小室 今日は以前から企画していた対談の記念すべき第1回目です。これは眞田さんが言い始めたんだよね。ずばり、眞田企画(笑)!
眞田 そうです(笑)! すわ製作所のウェブサイトに「TALK/トーク」という欄があるんですけど、そこに小室さんと話したことを載せたら面白いなあ、と思ってたんです。
小室 ご指名頂き、誠に有難うございます(笑)。
眞田 小室さんの話を是非多くの人たちに聞いてもらいたいんですよね。
小室 そうですか(笑)? でも本当に有難いことですよ。それで、そんなことを話しているうちに、僕が管理しているここに掲載した方が早いだろう、ってことになったわけです。お陰でこのサイトはますます文字だらけ(笑)。早く建築の写真を載せないと・・・(苦笑)。
眞田 大丈夫、これからです!
小室 有難うございます(笑)。それにしても、眞田さんといろんな話をするたびに、本題からどんどん話題が逸れて行って、話が尽きないことが多いよね。
眞田 確かにそういうことが多いですね。多分、考えている方向とか、悩んでいるところが同じだからじゃないですか?
小室 だから合うのか(笑)。まあそれはともかく、僕らが最初に会ったときの話から始めましょうかね。
眞田 それがいいですね。
小室 簡単に言うと、私の恩師である武蔵工大(現東京都市大学)の宿谷先生の研究室で会ったのが最初でしたね。確か2007年の11月です。
眞田 武蔵工大の建築学科って、11月の学園祭のときに、5年位前から「OB100人展」というのをやってるんですけど、それに合わせて学生向けのシンポジウムを企画することにしたんですね。というか、僕がその幹事だったのでやらざるを得なかったんですけど、そのときに講師としてお願いしたのが宿谷先生だったんです。
小室 どういうきっかけで宿谷先生になったんだっけ?
眞田 以前から宿谷先生の研究に興味があったんですよ。
小室 偉い(笑)! で、具体的には?
眞田 よくわからないんですけど、何かエクセルギーとか(笑)。
小室 来た~(笑)。でも、とてもいいことですよ(笑)! いいんです、エクセルギーなんかわからなくても、「これって何かあるぞ」って直感的に感じることが大事なんですよ。その点は、さすが眞田さんですね。
眞田 宿谷先生はもともと建築学科の先生でしたけど、環境情報学部の開校に合わせて、横浜キャンパスに移ったじゃないですか。すごく面白い研究をやっているのに、いまの建築学科の学生は、宿谷先生の話を聞く機会って、ほとんどないんですよ。だから、「武蔵工大には宿谷先生っていう凄い先生がいるんだぞ。よーく聴いとけ!」という思いも込めて、みんなに先生の話を聞いてもらいたかったんです。
小室 その打合せに宿谷研に行ったら私がいた(笑)。
眞田 そうです!
小室 それで、話した内容はもう全然覚えてないんだけど、でも「こんな家とか設計してるんです」って写真を見せてくれたのが「門型の家」だった。
眞田 あのときは、ディテールに載った記事を持って行ったんです。
小室 そう、それを見せてもらった瞬間に、「門型の家」に込められた思いのすべてが見えたんだよね(笑)。だって、光の取り入れ方とか、風の逃がし方のための機能がそのまま建築形態に現れているからさ。俺、そういうの大好き。最近の日本の建築には、そんなのほとんどないよ、多分(笑)。
眞田 そう言って頂けると嬉しいです。あれは当初、コンクリートの門型の部分が上に出ていなかったんですよ。でも、なんだか腑に落ちなくて、模型を一か月くらい放置してました。
小室 そのあと突然、昇華したんだ?
眞田 そうなんです。あるとき、ふと気がついたんです。門型を上に伸ばしたら、光も入るし、風も抜けるんじゃないかって。しかも北側の冷気なんかも引っ張ってくるとしたら、気持ちの良い空間になるはずだと。
小室 まさに、光とか温熱環境と建築の形態が合致した瞬間だね。
眞田 そうです。僕にとっては、この段階で何か決まったって感じでした。
小室 それで、もう何度も話したけど、ちょうどそのとき、僕はドイツから建築家を案内することになってたんだけど、彼らに見せたくなるような住宅を探してたじゃないですか。でも、目の肥えたドイツの建築家を、どんなところに連れて行こうかって真剣に考えると、結構、深刻な問題なわけですよ。
眞田 確かにそうですね。
小室 そこにあまりにも偶然に「門型の家」が現れた。しかも見た瞬間に、「これ、見学させてくれないか」って眞田さんを口説いてしまった(笑)。初対面にもかかわらず、そんな失礼なお願いに対して眞田さんは快諾してくれたんだよね。
眞田 1回だけかと思ったら、ドイツ人軍団は3回も来ました(笑)。
小室 すいませんねぇ(笑)。そんなに何度も行くつもりはなかったんだけど、3回目はドイツの方から「門型の家」を見せて欲しいって要望が来ちゃったからね。建築主にも本当に感謝してますよ。それにしても全部で50人くらいは来てるよ。
眞田 もう年一回の行事にすればいいんじゃないですか(笑)?
小室 そうするか(笑)。でも、ドイツ人に限らず、ヨーロッパの人たちって、建築に対する自分の考え方が意外としっかりしているから、連れて行って満足してもらえる建築を見つけるのは本当に難しいよ。
眞田 それはありますよね。僕だったら、どこに連れてくかな~?
小室 でしょ。海外からの建築視察の人たちを連れて行ってあげたくなるような住宅ってどこか思いつく? 日本の伝統的な木造住宅っていうのもいいけど、中まで自由に見せてくれるところなんてほとんどないし、かといって最近の住宅で僕が面白いと感じる家って全然ないんだよね。建築関連の雑誌なんか見てても、俺の心が動く建築がない! みんな表面的なことばかり追いかけていて、デザインの拠り所が浅過ぎる(笑)!
眞田 小室さんと、そういうデザインの拠り所の話をすると盛り上がりますよね。
小室 はい、いまも勝手に盛り上がってますよ(笑)!
眞田 デザインって時代を表すものだけど、これからの10年とかを考えたときに、どういったことをデザインの拠り所として行くべきかを話したいんですよ。
小室 わかります。短期的な話じゃないってことだよね。この対談の目的の一つはそういうことだ(笑)。
眞田 そうです! 長期的な視野に立ったデザインはどうあるべきかってことも大切ですよ。
小室 その通りだよね。それで話は少し逸れるけど、「門型の家」は「住宅建築」の2008年10月号に掲載されたんだよね。そのとき、「ディテールって、何だろう?」という座談にも参加させて頂きました。眞田さんのお気遣いと住宅建築の皆さんに感謝します。
眞田 あのときは名和(なわけんジム)も一緒で楽しかったですよね。
小室 僕は「顕微鏡」と「望遠鏡」を覗いたときに見える絵とか描いちゃったりしてね。それも宿谷先生から頂いた示唆だったんだけど、「顕微鏡は小さなものを拡大して見たときに見えるディテールで、望遠鏡で覗いた世界は遠くにあるけど、それもディテールの一つだ」ってなことを言っちゃいました(笑)。
眞田 ディテールって、大切にしたい視点の範囲と距離の問題ってことですよね。
小室 そうです。それで眞田さんは、「宇宙から見ると、バンクラデシュ、超過密都市!」とか言いつつ自分で大笑いしてたよ。
眞田 確かにそんなこと言ってましたね(笑)。小室さんに入って頂いて良かったですよ。
小室 いや~、こちらこそ大感謝!
眞田 ところで、小室さんはどうして宿谷研に入ったんですか?
小室 今回の台本に書いてありそうなくらい、いい質問ですね(笑)。そもそも僕が宿谷研究室に入ろうと思ったのは、宿谷先生の最初の講義を聞いたときだったんですよ。それで、1年生の4月か5月には、「入るなら宿谷研か広瀬研だぜ」って勝手に決めてました(笑)。
眞田 そうだったんですか?
小室 そういうときの直感だけは鋭いよ。それで肝心の授業の中身は覚えてないんだけど(笑)、最初か何回目くらいかの授業のときに、宿谷先生は確か黒板に地球の絵を描いんだ。それだけは覚えてるよ。
眞田 へえ~。
小室 中学校とか高校生のときって、理科の授業で「僕らの地球」とか「地球のしくみ」みたいなことを習うじゃない?
眞田 そんな授業ありますね。
小室 でも、宿谷先生の話を聴いたとき、建築のあるべき姿ってものが、自分の意思だけで決まるものではないってことが、本当におぼろげに見えた気がするんだよね。何となく自分のやりたい方向っていうは、そっちの方かな、見たいな感じなんだけどね。
眞田 急に視野が広くなったんですかね?
小室 そうかもね。何もわかってない大学1年生の俺を、建築っていう小さい範囲から、もっと大きな世界に目を向けさせてくれた授業だったと思うよ。世界というとちょっと大袈裟なので、建築とそれを取り巻く環境って言った方がいいかな。
眞田 宿谷先生のやってることって、そこが根底にあって奥が深いですよね。
小室 そうだね。それで、そのときに気がついたんだけど、建築のデザインって、自分が単に思い描くものや、格好の良い形だけを追求して行くことではなくて、自然とか環境からの働きかけを活かせるような意匠にすることの方が面白いな、と思ったんです。そんなきっかけを与えてくれて授業だったから、僕の頭にずっと宿谷研が張り付いていた(笑)。
眞田 それ、わかる気がします。
小室 まあ、実際にそんなことが少しわかったのは研究室に入ってからだけどね。それは、宿谷先生と一緒にエクセルギーとエントロピーの勉強をさせてもらってから、より明確になった気がしますね。
眞田 それをもう少し理解できたらいいんですけど。
小室 ひとことでまとめるのは本当に難しいけれど、大雑把に言うと、生物とか人間とかが生きていることの本質は何かってことが違う角度から見えることかな。面白いのは、熱の移動とかが伴うすべての仕組みなんかもよく理解できるようになるんですよ。しかも、自然界の小さな生物の営みから地球規模の巧みな機構まで視点が広がって行くしね。だから建築も熱や光が移動する空間と捉えてみると、人間と建築と環境の関係がいろいろと見えてくるってことですかね(笑)。
眞田 僕もそのいろいろを、見てみたいです(笑)。
小室 もう「門型の家」で見えてるんじゃないの(笑)?
眞田 実は見えてきてます(笑)。
小室 さすが早いね(笑)。
眞田 で、話はちょっと逸れますけど、僕はずっと波乗りをやってきて、これまで感覚的に捉えてきたこととか、あとはカナダのスキー場で生活していたときの経験なんかが、いまの設計のどこかに活きてると思うときが結構ありますよね。
小室 それは貴重な経験だよね。実体験にまさるものはない、ってことかな。それにしても、いろんな雑誌をみると、確かに素晴らしい建築はたくさんあるよね。でも宿谷研で学んで以来、僕にとってのデザインの拠り所は、いま言ったような方向以外には考えられなくなったかな。だから、最近の日本の建築って、僕が思っている枠の中に全然入って来ない。別に入って来なくたって全然構わないんだけど、唯一、入ってきたのが「門型の家」だった(笑)!
眞田 それにしても宿谷先生って、研究者として確固たるものがあるところが凄いけど、教育者としての懐も深いですよね。
小室 はいそうです(笑)。もちろん厳しい面もあるけれど、優しくて人間的にとても素晴らしいですよ。尊敬してます。
眞田 それは小室さんを見てて感じますね。もちろん僕もですけど。
小室 だから、卒業してからも、何かあるたびに連絡を取らせてもらってるし、研究室にも気軽にお邪魔させてもらっています。もちろん人生相談も(笑)。
眞田 それって羨ましいですよ。そんな話を聞くと、何だか宿谷研に入って、きちんと勉強したくなりました。
小室 いいですよ~、大歓迎! 宿谷先生には僕から話し通しておくから(笑)。
眞田 そんなんでいいんですか?
小室 大丈夫ですよ。なんて勝手なことを言ってますが、宿谷先生、ごめんなさい(笑)。
眞田 でも、できれば本当に何か一緒にやりたいですよ。僕らのやってきたことも宿谷研の視点で検証したいんです。
小室 いいですね。いますぐにはできないかもしれないけれど、近い将来、是非やりましょう!
眞田 小室さんとの出発点って宿谷研究室だから、今日はそれを含めた話ができてよかったです。なんだか、まさに「僕らの宿谷研究室」ですね(笑)。
小室 本当にそうですね。でも、対談って、こんな感じで良かったのかな?
眞田 いいと思います!
小室 じゃあ、そういうことにしておくか(笑)。でも今日は僕の方がしゃべり過ぎだね(笑)。まあ、それはともかく、眞田企画に心より感謝します。
眞田 こちらこそ。
小室 是非、第2回もやりましょう。
眞田 もちろんです。じゃあ、第1回目を祝して乾杯しますか!
小室 俺達、飲んでたのか(笑)!
補足 宿谷先生の取組みについては、市民科学研究室の「リビングサイエンスアーカイブス」に対談という形で詳しく掲載されています。
宿谷昌則さん(武蔵工業大学環境情報学部教授)インタビュー/2005年12月7日 武蔵工業大学宿谷研究室にて 聞き手:上田昌文(市民科学研究室代表)

改訂:2009年9月29日/29.9.2009

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