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還流独歩

地下鉄とバッタ 2012.08.18

夕方、地下鉄に乗った。隣りの車両に近い三列席が空いていたので、一番端に座った。そして、いつものようにPCを広げて作業を始めたら、視界に動くものが入ってきた。私の左側には、何かを収納しておくための奥行10cmくらいの棚のような場所があるのだが、その上にバッタがいたのである。一瞬、たじろいだが、かなり弱っているようで、動きも鈍いから、不意に近寄ってきたり、飛ぶ気配もなさそうだ。

そんなバッタを見ていたら、何だかとても可哀想に思えてきた。透明な窓ガラスから外へ出られると思うのか、前足で懸命にガラスを引っ掻く姿が、やけに痛々しい。どこから入ってきたのか知らないけれど、この車両から出るのはまず無理だろう。しかも地下鉄だから、捕まえて、どこかに放してあげるわけにもいかない。このバッタだって、望んで入ってきたわけでは決してないだろう。だから、元気のない姿を見るのは何だかとても辛い。

一匹のバッタがどうなろうとも、私の生活には何の関係もないけれど、弱々しくも懸命に生きようとしている光景を地下鉄の中で目の当たりにすると、何だか不思議と胸に熱いものがこみ上げてきたりするのだった。地下鉄が地上に出たときに、誰かに外へ放してもらえたら良いのだけれど、おそらく無理だろうなあ。でも、もしかしたら、助けてくれる人がいるかもしれないなあ。そんなことを思いながら地下鉄を降りた。夏の夜空が目に痛い。

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