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朝日新聞 住まい/世界のウチ

じわじわ暖房は高速乾燥機 2006.03.15

冬の寒い時期にドイツや北欧を旅行したことがある人なら、旅先のどこかで必ずお世話になったことがあると思われるのが、放射式の温水暖房器だろう。寒い戸外から戻ったときに、その抜群な暖房性能に感心したことのある方も多いはずだ。もちろん日本のように、天井内に設けられた空調機から冷温風を吹き出す方式も見かけるけれど、それは商業施設やビジネスホテルなどに多く、それ以外の建物や一般の家庭では、窓下や壁に設けた放熱器に温水を循環させて暖房する方法がいまも主流である。

ところで、長期の旅行で厄介なのが洗濯だ。大抵のホテルではクリーニングを受け付けているけれど、例えばTシャツや下着などは自分で洗濯することも多い。なかなか乾いてくれないのが厄介だが、乾燥機としても活躍するこの放熱器は大助かりである。しかも、タオルが掛けられる形状の放熱器は、手で絞っただけの水がしたたるような下着や厚めの靴下でも数時間ほどで乾いてしまう。部屋を暖めながら洗濯物も急速乾燥させることのできるこの放熱器は、もちろん一般の家庭でも大活躍だ。

一方、寒さの厳しい地域を除いて冷房が主体のところが多い日本では、夏季に冷房として活躍するエアコンを、冬にはそのまま暖房器として使用することも多い。しかし、室内の空気をすばやく冷やしたり、暖めたりするには好都合なエアコンも、冬場はそうとは限らない。特に断熱性の良くない建物では十分に暖まらなかったり、足元だけが寒く感じたりする場合も多く、暖房に関しては快適だとは言い難い面がある。その点、ドイツや北欧に見られるような放射式の暖房方法は、室温を急速に調整することは苦手だけれど、不快な気流や温度差を感じることもなく、断熱が行き届いた建物では室内の温熱環境もより均一に保たれることになる。

日本とドイツの暖房方法の違いは、どうやら急速型とじっくり型の違いといっても良さそうだ。じっくり型は、身体や室内をじわじわと暖めてくれる。その心地良さを一度味わってしまうと、夏場の冷房に便利なエアコンも、暖房では何だか物足りない感じがしてくる。ドイツのような薄暗くて寒い冬には、じわじわ暖房器で洗濯物を急速乾燥させながら、物事の本質について、じっくりと考えてみるのが正しい過ごし方なのかもしれない。

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