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還流独歩

林業は人づくり 2009.11.07

東洋大学で行われた「木の学校づくり」に関するシンポジウムに参加する。13時の開会に向けて、余裕を持って出かけたつもりが、着いたときには13時を少し回っていた。会場内には多少の空席はあるが、全部で100名近い参加者が来ているようだ。

いろいろな発表が勉強になったが、最初に基調講演をされた長野県川上村の藤原村長の話が良かった。川上村という名前は、恥ずかしながら初めて聞いた気がするのだが、都市圏にも割合と近く、群馬、埼玉、山梨の三県に接しているそうだ。最も低いところの標高が1100mで、霜が降りる期間が年間で約7か月あり、平均気温は7℃という高冷地である。またレタスの生産量は日本一だそうで、農家の平均年収は2000万円だという。

この村でカラマツの造林が始まったのは380年ほど前で、善光寺や江戸城にも使われたという。明治20年頃には、カラマツの苗木の生産技術が確立し、日本の各地や朝鮮半島、中国にも輸出され、川上村の林業は繁栄するが、戦後の高度経済成長に反して木材価格が低迷し、過疎と高齢化による林業従事者の減少によって、林業は衰退して行った。日本の林業の歴史と現状は、きっとどこでも同じなのだろう。

藤原村長によれば、森林は天井のない「教室」であり「病院」だという。また、農林業は「生命維持産業」だが、コンクリートは「経済維持産業」の一つであり、いまの日本に必要なのは、「屋上緑化」ではなく、疲弊した人たちのための「国民緑化」だという。コンクリート造は30年しか持たないが、木造は二代、三代に亘って継承されて行く。長い視点での緑化に他ならない、という話が続く。

川上村では、カラマツと共存してきた先人たちの苦悩と歴史を学び、風土を肌で感じて、資源に自らの付加価値をつけることが求められている。農業は1年で再生するが、林業は30年から100年の長さで考えなければならない。そして、ものをつくることだけが大切なのではなく、人々に感動を与え続ける川上村のカラマツは素晴らしい。

村民に24時間解放している「川上村文化センター」や、「林業総合センター」は、すべて川上村のカラマツで建設されているという。「お爺さん、お婆さんが植え、お父さん、お母さんが育て、私たちが使って、そしてまた植える」。それが具現化したのが川上中学校である。だから「林業って人づくりなんだ」という話に感銘する。そして、川上村はきっと豊かなんだろうな、と思った。

能代で設計事務所を主宰し、木造校舎をいくつも設計している知人の西方さんも講演者の一人だった。コンクリートの校舎ができたときには、「永久校舎」などと呼ばれた。でも、ある高校は屋根から漏水し、その補修に3億円、壁の不具合が見つかって、それにも2億円が失われた。5年で5億のお金が消えた。これで何が永久校舎だと。

そんな話を聞きながら、都会で自由に暮らす自分の立場を考えた。考えても何の結論も出ないし、いまの生活を大きく変える勇気などないけれど、いろいろなことに思いを巡らせることができた有意義なシンポジウムであった。

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