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還流独歩

日本取材班到着 2010.03.09

先週の木曜日だっただろうか。ケルンのテレビ局に勤める友人からメールが来た。来週、同僚が東京へ取材に行くので宜しく、という内容だった。対象は建築とはまったく関係がなく、日本の風俗を取材するという。そんな対応など私ができるわけがないし、あまり関わりたくもなかったのが、取りあえず話を聞いてみることにした。金曜の夕方、その友人と電話で話した後、日本に取材に来るという彼の同僚から取材の方向性を聞かされた。私が直接何か援助できそうなことは一つもなかった。

それはともかく、ケルンから来るというので、東京で会わないわけにはいかないだろう。ホテルには19時くらいに着けそうだというので、19時半にロビーに行った。フロントには、それらしき男性が二人いたが、違う可能性もあるので、柱の陰にあった館内専用電話で部屋につないでもらうことにした。名前を伝えてから、しばらく待たされている間に携帯が鳴った。いまチェックインしているという。柱の脇から見ると、携帯を持っている男性がいる。結局、彼らだった。固い握手を交わせば、気分はケルンへと飛んで行く。

そのあと、雪が降る中、飲みに出かけた。二人とも日本は初めてだと言う。彼らが楽しめそうなところを事前に調べて予約しておいたが、もしかしたら日本食が食べられない可能性もあるので、お店にはキャンセルするかもしれないと伝えておいた。二人のうち、イェンケは何でも食べて飲んで日本を知り尽そうという強い意気込みを宣言した。日本を取材するのだから、あたり前だろう。その一方で、カメラ担当のヤンは魚が苦手なので、それ以外もあると有難いと言う。お酒に関しては二人とも大丈夫らしい。

彼らは長旅の疲れも見せず、店内や料理の写真を撮りながら、多いに食べて飲んで、日本の最初の夜を満喫している。好奇心旺盛のイェンケは、刺身でも何でも大丈夫とのことで、一番安い刺し盛りにもいたく感動していた。しかも、ホテルの朝食で納豆にも挑戦すると言っている。他にも何か面白い食べ物はないかというので、鯨の立田揚げを勧めた。初めて食べるという。あるとき、ケルンの別の友人に塩辛を勧めたら一口で吐き出したので、彼にも試そうと思ったが、飲んでいるうちに忘れてしまった。

聞くところによると、編集担当のイェンケは、すでに80か国近くを巡り、その国が持つ独特の世界を取材して来たという。だから今回、日本における「性」の扱われ方を掘り下げて取材するという目的も、けっして面白半分で取り上げるのではなく、いたって真面目であり、しかも、その裏に隠された見えざる他の文化も是非紹介したいという。彼らの話を聞きながら、むしろ日本は、諸外国からどのように見られているか、ということについても触れることができたように思う。

そんな話をしつつ、ますます調子が上がってきた彼らは、日本酒のいくつかの銘柄を堪能しつつ、その合間にビールも注文し始めた。混ぜて飲むのは危ないと私は忠告しつつも、その勢いは止まらない。仕方なく私も適度に付き合うことにした。時間は23時を回り、飲み物の注文も終わりになったので、安着祝いはこの辺でお開きにすることにした。遠くからの来客だから、私が支払うつもりでいたが、イェンケに軽く諭されて、ご馳走になることにした。伝票に目をやると、かなりの額になったらしいことはすぐわかった。

私にとって今夜は、東京でドイツ語を話せる有意義な時間が持てたし、旅慣れた彼らとはいえ、初めての日本で出迎えてくれる人がいるというのは、多少なりとも心強かったのかもしれない。結局、10日間近い滞在中の取材の話はあまりしなかった。彼らは彼らなりの視点で日本を見つめるのだから、私が無理に何かをすることもないかとも感じた。そしてお店を出て、彼らはホテルへ、私は地下鉄へ向かった。数日内に、また会おうということになったはずだが、最後はその記憶も朧(おぼろ)げになった楽しい出会いだった。

加筆訂正:2010年3月27日(土)

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