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大噴火で大混乱 その3 2010.04.22

ドイツへ移動する朝、いつもよりも早めに成田空港に到着した。某航空会社は今日、パリとロンドンへ定期便と併せて臨時便も運行するというので、かなりの混雑が予想されるという。実際に行ってみたら、搭乗手続のための列が、いままで見たことがないくらい長かった。

5日間近くも欠航が続いたので、フランクフルト行きも満席に違いないと思っていたのだが、機内に入ってみると予想外にも空いている。ビジネスクラスは半分にも満たないし、エコノミーも7割程度の混み具合である。大手の旅行会社が、欧州行きの団体旅行を取りやめたと聞いていたから、それが関係している可能性が高い。

これは旅行を楽しみにしていた人にとってはもちろん、航空会社や旅行会社も含めて、まさに多重苦の大打撃だ。個人で移動する私は申し訳ない気持ちになったが、こればかりは仕方がない。実際、4列席に私を含めて2人しかいないのだ。もう一人は反対側の通路側に座っているので、離陸してから一つ内側の席に移った。これで両側の席も含めて全部で3席使えることになる/苦笑。

話は少し遡るが、例の火山が爆発する前に、偶然にも出発を二日遅らせていたのが本当に良かったと思う。そんな変更はいつものことなのだが、出発日を遅らせていなかったら欠航の混乱に巻き込まれていたに違いない。そう考えると、30分遅れの出発など気にもならないし、飛んで頂けるだけで本当に有難いことである。

それにしても今日の機内は、いつにも増して静かだった。何度かお手洗いに席を立ったとき、機内を見回してみたけれど、団体客らしき人たちの高揚感がまったく感じられない。数席後ろにいるお子様が、時折ぐずって泣き叫ぶ声が機内に何度も響いたけれど、数分もすれば泣き止むとても良い子だったので、とりたてて気にもならなかった。

何だか妙なお陰で、今回も気持ち良く移動ができたのは良かったものの、大型連休を避けて、この時期に欧州旅行を楽しもうと思っていた人にとっては本当に災難だったろう。普通に働いている人にとって、一週間の休みを取るのは大変なことだから、旅行が取りやめになった人はさぞかし残念に違いない。

そんなことは何の関係もない感じで、両側に空席のある飛行機に乗れた私は、言葉だけの見せかけな罪悪感を背負いつつも、いつものように機内で葡萄酒を頂きながら、束の間の安堵感に浸らせてもらえたのは幸運以外の何ものでもないだろう。機長からのアナウンスも、噴火による欠航の混乱や現地の状況については何も触れることなく、普段と何も変わらなかった。

到着したフランクフルト空港も特に混雑している様子もなく、いつもと同じように見えた。荷物を受取って、長距離新幹線駅に行く。そこで改めて気がついたのだが、やっぱり駅全体が格好良く見える。それはすべてが統一された意匠を持ち、必要な情報以外のものが排除されているからだと思う。

確かに日本の駅には情報が溢れている。簡単に言うと看板が多いということだろう。とにかく、ありとあらゆるところに、密度の高いお知らせ看板が凝縮して掲示されている。日本の駅は、ドイツとはそのつくりも違うし複雑であることは理解できる。でもドイツに戻って来ると、情報のなさのすっきり感が逆に良く思えてきたりする。これについては、また別の機会に触れたいと思う。

5分遅れでやって来たケルン行きの新幹線に乗ったら、高速新幹線の区間が不通になっているという。これは1月末に帰国したときとまったく同じ状況だ。車掌が二つとなりのホームにライン川沿いを走る特急が来るので、それに乗換て下さいと言うと、3分の1くらいの人が席を立った。でも、毎日この区間に乗っているという隣りの席の男性は、そのまま待つのが懸命だと言う。

飛行機の中でずっと座ってきたのに、私もあまり動く気になれず、すぐ隣りの大きなテーブル席が空いたこともあって、そこに移った。すると左のホームには、ミュンヘンから80分遅れで到着した新幹線が入ってきて、少しすると右側のホームには別の新幹線も入ってきた。同じ方向に三つの新幹線が勢揃いして、鉄道ファンにはたまらない光景だろう。どの新幹線が一番先に出るのか気になるところだ。

先程話した男性は、飛行機が飛ぶようになったら、今度は電車が動かなくなったと冗談を言っている。確かにその通りだ。面白いのは誰も文句を言わないし、しかも慌てている様子もないことである。もちろん携帯電話で連絡をとっている人が多いが、乗客の人たちからは不思議な余裕が感じられるのだ。もともと定時の運行を期待していないということもあるかもしれない。

1時間待ったところで、まもなく出発するというアナウンスがあった。それから少しして、あとから遅れて到着したミュンヘン発の新幹線の方が先に出て行った。その男性と目を合わせると、「あっちはここに着く前にすでに80分遅れだからね」と言う。それに対して、別の男性は「あの電車は試験走行だなんだよ」と冗談を返してきた。そんな会話のやりとりができるなんて大人だと思う。

次は我々の電車が動き始めた。日が長くなり、周りの景色も輝いて見える。平行して走るアウトバーン3号線は、今日も車とトラックで一杯だ。急に眠気が襲ってきたので少し眠った。気がつくと、先程まで話をしていた男性はいなくなっていた。運行が乱れているので、一つ前の駅で後続の列車に乗り換えるなどの判断をしたのだろう。

中央駅のバス停に行くと、ほとんど待たずにバスが来た。ここではいつも待たされるので今日は珍しい。気温が下がってきているので、薄着のまま来た私にとってはすぐに乗れて良かった。しかし、私を乗せたバスは、降りる停留所が見えるその手前の十字路まで来たら、無情にもそこを左に曲がったのだ。「おーい」という叫び声が私の心にこだました。地下鉄工事のせいで、また迂回させられているのだろう。

私の気持ちとは裏腹に、バスはライン川の方へ走って行く。臨時の停留所は見えない。バスは川沿いの大きな通りを右に曲がって停車した。私は家まで400m弱だろうか。最後の最後にも小さな波乱が待っているとは思わなかった。到着が予定よりもかなり遅くなったけれど、噴火の影響を受けずに、長旅を無事に終えることができたことに感謝したい。そして25(日)からは、また移動が続くことになる。明日はその準備だ。

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