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還流独歩

建築の形態 その1 2010.05.06

10日間の建築視察を続ける中で特に印象に残ったことは、著名な建築家が設計競技で勝ち取った建築のほとんどが四角ではないということだ。ベルリンのバーンタワーやGSW/住宅供給支援機構、デッサウのUBA/ドイツ連邦環境庁、ボンのポストタワー、ルクセンブルクの欧州投資銀行、フランクフルトのルフトハンザ新本社屋、コメルツ銀行、KfW銀行、ロンドンの30St Mary Axe、そのすべてが四角い形状をしていないのである。

これらのすべてが箱形ではない理由の一つには、自社所有であるということが挙げられるだろう。ただし、バーンタワーは建築当初から賃貸での入居であり、GSW/住宅供給支援機構と30St Mary Axeなどは、竣工後、何年か経ってから売却され、現在はかつての建築主が賃貸で入居する形をとっているのだが、もともとは自社所有の建物であるために大胆な計画が行えたということはいえるであろう。

しかし、もう一つの最も重要な点は、これらのどの建築においても、自然光と外気が取り込める執務空間が求められていることだ。いずれの建築も、光と風をどのようにして取り込むのかを追求し続けたその延長線上に現れたものである。特にドイツで建てられる代表的な建築のほとんどが、自然光に溢れ、外気と直接、または間接的に触れられる形態と機能を有していると言い切って良い。

それができるのは、ドイツの執務空間の多くが一人から三名程度の個室形態を主に考えられているからである。もちろん、ルフトハンザのように、開放型の空間を優先した計画もあるし、あるいは個室型と開放型を併用している建築もあるが、いずれにせよ、昼光利用と自然換気は最も重要な設計思想の根幹であり、自宅と同じように、職場においても人工照明に頼らず仕事ができ、そこには自然の風を適度に取り込めることが極めて大切なのだ。

それを追求すると、自ずと建物の形状がどうあるべきか、ということを問いかけることになるだろう。光の入り方を考え、外気を適切に導くことを最優先に考えて行くと、真四角な建物は排除されて行くしかないのだろう。いや、仮に四角であったとしても、床面積を大きく取ることだけを考えるのではなく、むしろ昼光を導くために、大きな中庭を確保することが優先されるのである。

翻って、日本の大型建築はどうだろうか。確かに一部には奇抜な形状の建物も見受けられるが、特に大都市に建てられる事務所建物のほとんどが四角であり、室奥の深い執務空間がごく一般的である。それは土地が高い大都市であれば当然のことであろう。そこに無理やり、昼光利用とか自然換気を入れ込もうとすることに、はたして意味があるのだろうかと私は時折、疑問に感じてもいる。それは日本の建築が良くないということでは決してない。

その2へ続きます。

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