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還流独歩

建築の形態 その2 2010.05.07

その1からの続きです。

それは日本の建築に問題があるのではなく、もともと求められているものが違うだけのことかもしれない。日本の人も自然に触れるのが好きだと思う。夏の暑い太陽は嫌いだけれど、暑くはない冬の明るくて心地良い太陽の日射しが嫌いな人はいないはずだ。外から入ってくる涼風は、扇風機でつくり出される機械的な微風よりも遥かに涼しく感じられるだろう。それがもし自宅でも得られるのであれば、そんな素晴らしいことはないだろう。

ではそんな環境を職場を求める人は、はたしてどれくらいいるだろうか。執務空間というのは、何本もの蛍光灯の下で人工的な明るさが確保された場所で、しかも機械によって暑くも寒くもない均一な温熱環境が常に保たれている方が良いと思っている、あるいは思い込まされてきているようにも感じるのは私だけだろうか。もちろんそれが間違いだなどとは思わない。繰り返しだけれど、求められているものが違うだけだ。

でも、やっぱり言っておきたいことがある。この視察を通じて改めて感じたことは、昼光に溢れた空間というのは実に気持ちが良いということだ。太陽の光というのは何にも代え難い素晴らしい照明だと思う。日本全国に事務所建築がいくつあるか知らないけれど、その中で、昼間に蛍光灯をつけずに仕事ができる建物は、はたしてどれくらいあるのだろうか。外は晴れていてとても明るいのに、その明るさを使わずに蛍光灯をつけるという不思議な矛盾。

日本とドイツは環境も気候も都市の機構も大きく違う。だからドイツが最先端だなどとは決して思わないようにしたい。にもかかわらず、二酸化炭素の排出をみんなで減らしましょうと言いながら、晴れた昼間に照明をつけることを余儀なくさせる建築もまたあまりに多い。貸床面積をできるだけ増やし、階高は目一杯抑え、完璧な冷暖房設備と間仕切りの柔軟性に富んだ建築が求められ続ける現状を見ると、このままで良いのだろうかと思ったりもする。

そんなとき感じるのは、日本の人は実は環境とのつながりを大切にしたいと思っているにもかかわらず、本当はそれが体験できる質の高い建築というものに、実はこれまで触れる経験がなかったのではないかということだ。もちろんドイツだって、そんな建築を簡単につくり上げてきた訳ではない。でも、いつからか何かが少しずつ違ってきたのだろう。その背景があまりに違い過ぎて比較などできないし、そんなことに意味などないのかなと思ったりもする。

いま一度、ドイツを代表する著名な建築を思い返そう。それが日本で実現できるかはさておき、太陽の光が適度に入る明るい空間で、しかも季節の良い時期にはそよ風に触れながら仕事ができるとしたら、それは極めて贅沢なことに違いないと私は素直に思う。いや、それは本当は贅沢なんかではなく、これから求められる建築の姿の一つだったりするのかもしれないと、今回の視察を終えて改めてそう感じている。

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