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還流独歩

白月の夜 2011.01.18

夕べ、日付が変わる少し前に夜の街を歩きながら空を見上げたら、満月に近い月が冬晴れの夜空の一番高いところに浮かんでいた。高い建物に隠れて見えないことが多いのに、今夜は東京の真上から淡い光を放っている。冬の月は、ほかの季節よりも白く見えて、より寒々しく感じるのは気のせいだろうか。空気が澄んでいるからかもしれない。

月を白く輝かせている太陽は眩しくて見続けることはできないけれど、月は視線を外すことなくいつまでも見つめることができる。孤高に白く光る月を、これまで何度見て来ただろう。日本で見てもドイツで見ても何も変わらないけれど、満月というのは見るたびごとに、そのときの自分と対峙する存在にさえ感じてしまう。

地球に与えられた衛星が、わずか一つというのも考えてみれば不思議である。月と同じような星が、いくつかあっても良さそうなものだが、太陽系という大きな宇宙空間の均衡を保つためには、地球には月という一つの衛星だけが残されたのだろう。普段は宇宙について関心を寄せることがあまりないけれど、月の存在は神秘的に思える。

日本の人は古来から、月にウサギがいると考えていた。そういえば今年は兎年である。じっとしていながらも、まるでアンテナを張っているかのように耳をそば立てているウサギを見習って、周囲の声を謙虚に聞くようにしたいと思う。餅つきをしている姿は見えないけれど、今日の月の中のウサギはそんなことを伝えて来ているのかもしれない。

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