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還流独歩

断熱と気密 その1 2011.04.19

断熱と気密に関して、一体、どれくらいの人がこれまで言及して来ただろう。インターネットで検索すると、無数の情報が掲載されている。十数年ほど前からは、高断熱/高気密が取り沙汰され、その重要性が指摘される一方で、日本の気候風土には、高断熱/高気密は不要であり、家自体が呼吸できないような密閉した空間をつくるのは邪道であるという見方もいまだに根強く存在しているようである。

私は断熱も気密もしっかり行う方が良いという立場を取っている。その理由はたくさんあるが、その一つは、冷暖房にあまり頼らなくても、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせる環境が実現するからであり、温熱環境の良さは快適性と密接な関係があると思うからである。でも、その快適性がどのようなものであるかを具体的に示すことは難しいし、数値で表したところで、それを実感することもできない。これはもはや体験しかないのではないだろうか。

ともかく、こういった話をあちこちで何度もしながら、私自身も断熱と気密というのは、一体どういうことだろうかとずっと考えて来たし、何か簡単な例を引き合いに出し、その重要性を伝えたいと思ってきた。それでようやく行き着いたと思われる答えを導き出すことができた。ここで仰々しく伝える程のことではまったくないので恥ずかしいのだ、それは「断熱はセーターで、気密はウィンドブレーカーの役割を担っている」ということである。

これを専門家が読めば、そんなことは周知の事実で、何をいまさらと仰るかもしれない。でも、断熱と気密の大切さを一般の人に説明するときに、熱伝導率や熱貫流率、熱損失係数、Q値や気密の単位を伝えるだけでは本質は伝わらないのではないかと思う。数値は重要な意味を持つけれども、それと同時に、もう少しわかりやすい表現をすることも大切なのではないかと考え続けて来た。

一例として、寒風が吹く冬の寒い日を想像してみる。厚いセーターを一枚着ていれば、ある程度の寒さはしのげるが、冷たく吹いて来る風を完全に防ぐことはできない。空気という媒体は、まったく動かない状態だと最も優れた断熱効果を発揮するが、動くと熱は移動する。セーターは身体の周りの空気をあまり動かさないようにする機能は持っているが、実は意外と風を通しやくできているから、セーターに強い風が当たる環境では十分な暖かさは得られない。

一方、風を防ぐウィンドブレーカのようなものを一枚着ているだけでも寒さはしのげない。吹いて来る風を抑えることはできても断熱性能は高くないから、身体の熱は逃げてしまう。つまり、気温が低く風が強いときには、断熱性能のあるセーターと、気密性能があるウィンドブレーカの両方を着用することで、はじめて防寒対策ができることになる。例えば、セーターの上にコートを羽織ることはあたり前のことだが、それは実に理にかなっている。

家や建築は人間ではないから、脱いだり着たりはできないし、環境に建っている以上、同じように寒さと風の影響を受けてしまう。断熱材を施しただけでは空気の出入りを抑えることはできないし、あるいは気密シートだけを張り詰めても断熱性能は得られない。この二つが適切に施されてはじめて、しっかりとした断熱が確保されることになる。その両方の性能を持合わせている建材があれば良いが、求められる機能が違うため、二つが一体となった建材はない。
 
 
お詫び:2011年5月11日(水)
断熱と気密の関係を、セーターとウィンドブレーカに例えて説明した事例がたくさんあることに気づきました。この文章を書いた時点では、他の多くの方が同様な指摘をされていることまでは調べ切れていませんでした。文章的に先走った感がありますし、同じようなことを考えている方が、多数いらっしゃることを知りましたが、重複する主意をそのまま掲載させて頂く旨、どうぞお許し下さい。

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