断熱と気密 その2 2011.04.20
それから気密をすると家が呼吸しないと指摘されることがあるが、湿気だけを通す素材はある。そもそも建築という人工物が、人間とまったく同じ機能を有するわけがないし、何百万年もかけて進化して来た人間という素晴らしい生物の持つ類い稀な能力を、建築が簡単に模倣できることなどあり得ない。その代わりできることは、人間が口や鼻で呼吸するように、適切な位置に換気口を設置し、そして適度な換気計画を行うことである。それを呼吸の代わりにするしかない。
話が少しずれてしまったが、以前にも書いたように、私は日本の伝統的建築や社寺建築を否定するつもりは一切ないし、むしろ日本食と同じで、世界に誇れる文化の一つだと思っている。そういった建築は、確かに壁が呼吸するような機能を持っていると思う。ただ、そう表現すると聞こえが良いだけの話で、伝統的な建築の外壁は、内と外の温熱環境がほとんど変わらないということである。夏は暑く、冬は寒いを単に耐え忍んで来ただけの話である。
大きなお金を投じて建てる家に、いまそれを望む人はいない。そして、これも何度が触れたように、日本のような夏の暑い気候帯に、断熱気密がしっかり施した建築を建てると、室内に熱がこもって余計に暑くなるのではないかという誤解を受けることがある。確かに夏にセーターやコートを着て歩く人はいないが、それは人間が36℃という発熱体であるからだ。建築は内部から熱を発してしまう人間とは同じではない。
ただし、一点だけ補足させてもらうなら、夏の強い陽射しが窓から室内に直接入って来るような環境だと、確かに熱がこもることは事実であるから、まずは日射を遮ることが非常に重要となる。また、内部発熱の大きい事務所ビル等では、年間の大半が冷房負荷になることも多い。それと断熱の関係については、外表面積と内部空間の面積、あるいは容積と絡めて議論する必要があるだろう。
ともかく一般の住宅の熱的性能を考えるとき、クーラーボックスや冷蔵庫はどうあるべきなのかについて意識してもらった方が良いだろう。これも以前に書いたが、断熱性能の悪いクーラーボックスや冷蔵庫を欲しいと思う人はいない。断熱がしっかりしているからこそ、内部に入れたものが長時間、同じ温度に保てるのである。断熱性能の悪い住宅と、断熱に乏しい冷蔵庫はほぼ同じであり、その逆もまた然りである。
気候も段々と良くなって来て、もはや暖房について語る季節ではないことは承知している。しかも「断熱はセーター、気密はウィンドブレーカー」という実に単純なことに気がついただけなのに、またこうして長々と熱く語ってしまった。でも、冷房や暖房のために消費される地下資源の量を少しずつ減らして行くべきだという認識に私は立っているから、その大切さをしっかり認識してもらえるような活動をこれからも続けて行こうと思っている。
加筆訂正:2011年4月22日(金)