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還流独歩

日本語の多様性 2011.04.28

これまで、日本食の奥深さや多様性について書いて来たが、日本語に関しては、あまり触れていなかった気がする。ドイツでの生活を続ける中で、日本語というのは実に良くできていると感じることが実に多い。例えば「洗い流す」「歩き続ける」「破り捨てる」といったように、二つの動詞をつなげることができるというのは特異であり、「書きなぐる」とか「泣き明かす」などの事例をみると、その優れた表現方法と柔軟性に感心さえしてしまう。

一方、英語はどうかというと、動詞が二つ重なることは助動詞を使う場合を除いてほとんどないのではないかと思う。ドイツ語は英語に近いけれども、文法的にはまったく異なる面もあるから、一概に比較することはできないが、例えば、「私は父が来るのが見えたので嬉しかった」という文では、「Ich war froh, weil ich meinen Vater habe kommen sehen」となって、文の後半は、「habe kommen sehen」という動詞が三つ並ぶという例外はある。

話は少しずれてしまったが、そういった動詞の並列を問題にしたいのではなく、最初に書いたように、「飲み切る」とか「食べ散らかす」というまったく意味の違う動詞が二つつながって、実際の状況を克明に表現できるという点において、日本語は実に優れているのではないだろうか。その一方で、英語にも「keep (on) dancing」のような用法があるが、それはあくまで例外であって、日本語の多様性にはかなわないのではないかと感じる。

例を挙げると「切り落とす」は英語で「cut」、もしくは「cut off」で、ドイツ語では「schneiden/シュナイデン」、もしくは「abschneiden/アップシュナイデン」となる。ドイツ語の場合、英語の「off」にあたる前置詞は、動詞の前に「ab」がつく分離動詞となる。これを説明し始めると長くなるので止めるが、「off」といった英語の前置詞は動詞の後ろに来るが、ドイツ語の場合、それに相当する単語は動詞の前に付く。ただし単独で用いられる前置詞もある。

これも文法上の難しい話なので割愛するが、ともかく日本語が持つ表現の多様性というのは非常に素晴らしいと私は思っている。「つまみ食いする」とか、「酔いつぶれる」、あるいは「泣きわめく」や、「怒り狂う」といった二つの動詞がつながることで、その場の臨場感が出るし、実際の状況が目に浮かぶような気にさえなる。日本語というのは難しいと言われるけれど、この言語文化は世界に誇るべきことの一つだと改めて感じるのである。

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