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還流独歩

注文住宅への注文 その3 2011.09.07

家を建てるのは、おそらく家族のためだと思う。そして、互いの絆を深めるものでなければならない。それは、限られている予算の中で、できるだけたくさんの部屋を配置することで得られるものなのだろうか。部屋がたくさん欲しい気持ちもわかる。でも、家を建てる目的が部屋数を増やすことに向き過ぎている嫌いはないだろうか。

家という空間の豊かさは、部屋の数では決まらないと思う。いや、単にそう思いたいだけなのかもしれない。設計事務所の提案が、つねに正しいなどとは思っていないけれど、多くの家を建てて来た大工さんがのことばには、それなりの重みがあると思う。長年に亘って現場を知り尽くして来たからこそ、そこから何かを敏感に感じ取っているのだろう。

「間取りから、家は見えても、家族が見えない」。少し大袈裟かもしれないけれど、その大工さんのことばを少し言い換えれば、こう表現できるだろうか。家を建てたいと思っている多くの人たちと、そんな話をたくさんしてみたいと思っている。でも、そんな機会はほとんどない。ならばつくってみようか。

電車に乗るたびに、沿線に建つ住宅を見てしまう。都心から郊外に出ると無数の家が建ち並んでいる。某歌手が歌っているように、あたり前だけれども、どの家も誰かさんが建てたわけで、世の中のお父さんは今日も頑張っているわけで、そこには家族があり、他にも夫婦なり、お年寄りなり、一人暮らしなりの誰かが住んでいる。

そんな家のほとんどが、おそらく間違いなく家族のために建てたのだと思う。でも、現場の職人さんからは、家族が見えないつくりだと指摘される。そんなに難しく考える必要はないのかもしれないけれど、はたして、これで良いのだろうか。家族のための家は、買うものではなくて、つくるべきもののはずだ。立場上、そう思いたい。

そして、温熱環境も含めて言いたいことはたくさんある。そして、家づくりの最重要事項が部屋数だというのであれば、どうしてそう思うのかたくさん話し合ってみたい。とは言うものの、納得する間取りをつくってくれさえすれば良いと思う人を敵に回したくはないという気持もあるから、こんなことを書くと面倒くさい人だと思われるに違いない。

だけど最後にやはり言いたい。家族の絆を深めるための家づくりで大切なことは、大工さんの言う通り、部屋数の多さではないと思う。いや、もちろんそれも重要であることはわかっているのだが、独りよがりとも受取られかねない意見を言わせてもらえるなら、家には、部屋数にとらわれることのない、全体を包み込むような何がしかの「おおらかさ」というものが必要ではないだろうか。

何だか最近、そういう思いが強くなり、多くの方と意見交換をしてみたいと感じている。取り留めのない話におつきあいを頂き、感謝申し上げます。

加筆訂正:2011年10月8日(土)/10月17日(月)

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