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高齢者養護施設訪問 その2 2011.11.09

この養護施設は1985年に竣工で、現在では150名の方が入居している。その内、120名が認知症のお年寄りで、残りの30名が身体的な問題を抱えている。その割合までは聞き漏らしたが、この施設ができた当時は、いわゆる認知症の人は少なかったが、現在では、その割合が確実に増えているようだ。私は日本の現状までは十分には把握していないが、これは両国だけでなく、先進国では寿命が伸び続ける傾向にあるから、おそらく国を超えた問題ではないだろうか。

この介護施設を訪れて感じることは、まずその明るさだ。いわゆる照度的な明暗ではなく、館内の雰囲気が良い。それを生み出しているのは、ここで働いている人たちの笑顔や動きももちろんだが、建築的に非常に優れた面を持っていることが大きく関係していると思う。まず、建物が四角ではないことだ。廊下の壁に掲げられた避難径路図を見ると、居室と廊下が直線的に伸びるのではなく、緩やかな曲線を描いて、有機的に広がっているように見える。

居室に入る扉も廊下と平行ではなく、斜めに配置されており、平面的な変化がある。簡単に言えば、廊下は真っすぐではないのだ。部屋は規則正しく並んではいるが、廊下に対して直角に配置されているわけではなく、動線が斜めに入るようになっている。あとから聞いたのだが、この施設は隣接するシュタイナー学校と関係があるらしく、いわゆる画一的なところがないように見えるところからも、それが伺える気がする。

左右に曲がりながら続く廊下、柔らかな色を使った壁の色彩、蛍光灯を使ってはいるものの、天井ではなく廊下の壁から優しい光を放つ照明など、そういった、さりげなく見える建築的な配慮が、この施設の雰囲気を間違いなく、つくり出しているだろう。要はすべてが冷たくはないのだ。1時間にも満たない案内の中で、どこにいても温かみが感じられて、誰かに守られているような、まさに安らぎとでもいえそうな感覚を覚えるのだ。

館内を案内してくれる男性の話によれば、80年代は、外部委託の会社が、地下にある厨房で食事をつくることが多かったが、いまは入居者の希望に応じて、自分で調理できる環境も整えているとのことだ。また、自分で身の回りの世話ができる人や、身体的にも問題ない人たちが積極的に活動できる部屋と、認知症が進んでしまっている方が、受け身的に参加する空間が別れていることも教えてくれた。私に挨拶ができる人もいれば、まったくわからない人もいる。

ここに入居する一人の女性が、自分の部屋を快く案内してくれた。いくつくらいの方だろうか。おそらく80歳近いのではないかと思われるのだが、とても快活で、表情が豊かな方である。まさにお婆ちゃんと言った方が相応しいかもしれない。この女性が、どういった理由で、ここに入居することになったかはわからないが、部屋には、家族や、お孫さんと思われる写真がいくつも飾られていて、とても恵まれた環境にあることが伺える。

この女性にお会いできた時間は5分にも満たなかったが、何だかとても気持が柔らかくなったのと同時に、自分が同じ立場だったら、どう生きているのだろうかということが頭の片隅を過(よぎ)った。ここは彼女にとって、終の住処であろう。私が同じ年齢になり、同じような境遇であったとしたら、はたしてそれを受け入れることができるのだろうか。人間は必ず老いる。年を重ねることは理解できるが、自分の老後はまだ描けない。誰しもが同じかもしれないと思う。
 
AjasGartenhaus_111208S24V

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