理念 建築 略歴 連絡
文章 視察 還流独歩 大福企画
還流独歩

ウムラウト 2012.07.22

「アルファベットの上に点々がついているのは何ですか?」。たまにそう訊かれることがある。ドイツ語には、英語にはない文字が4つある。そのうち3つが、ウムラウトと呼ばれる変母音だ。「ä」「ü」「ö」、そして「ß」である。「ä」は「アー・ウムラウト」、「ü」は「ウー・ウムラウト」、「ö」は「オー・ウムラウト」、記号の「β/ベータ」に似ている「ß」は「エスツェット」と読む。

「ä」「ü」「ö」は変母音と書いたが、要は変則二重母音のことで、「ä」は「ae」、「ü」は「ue」、「ö」は「oe」というように、二つの母音が合わさったものである。「ä」の発音は、それほど難しくはなく、ほぼ「エー」の音に近い。「ü」は「ウ」の口の形をして「イー」と発音する。「ウ」と「イ」の中間音だ。問題は「ö」である。「オー」の口の形をして「エー」という音なのだ。これが一番難しい。「オー」と「エー」が合わさって「オエー」では洒落にならない。

ドイツ語を習い始めたときに、真っ先に習うのが、「何々をしたい」という動詞の「möchten」である。これは「mögen」の接続法二式であるが、そんなことはどうでもよくて、大抵の日本人にとって この発音が極めて難しい。「möchten」の日本語読みとして、「ミュヒテン」と書かれることが多いが、実際は違う。「モヒテン」でもないし、「ミョヒテン」でもない。そもそも、日本語のカタカナで表現しようとしても無理がある。ドイツ語を習い始めた人が、真っ先に陥るドイツ語の壁の一つが、この発音なのだ。

自分のことは棚に上げておいて、甚だ失礼な話なのだが、この「möchten」が奇麗に発音できる人もいれば、何年経っても、原音に近づかない人もいる。もちろん私にとっても難しい。そんなことを言ったら、英語の「f」「l」と「r」「th」「v」を奇麗に発音できるかどうかということと同じなのだが、この「ö」は、それらとはまた違った難易度を持っているように思うのである。だから「オー・ウムラウト」を見ると、正しいドイツ語に近い音を出せるかどうか、口を尖らせて、時折、練習してみたりするのである。

« »