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還流独歩

寿司屋の昔話 その1 2010.04.18

大学に入りたての頃、私は借りていたアパートの近くにあった寿司屋でアルバイトをしていた。そのお店は、もう5、6年前に移転し、いまは自由が丘の駅から歩いて10分ほどのところで、イタリアンとお寿司が楽しめるお店に生まれ変わっている。

夕べ、作業が一段落したので、気分転換も兼ねて髪を切りに行った。そのついでというわけではないが、お寿司も食べたくなったので、久しぶりに顔を出すことにした。前回行ったのは、もう一年くらい前だろうか。

カウンターは満席だった。何度かお会いした常連の方もいた。私と入れ違いで、別の常連さんが帰った後だと言う。私はテーブル席につき、何杯か麦酒を頂いたあと、大将が1月に還暦を迎えたという話を聞かされた。私はその誕生日をすっかり忘れていた。

常連さんたちによって「赤い企画」と名付けられた還暦のお祝いには、全部で50人近くが集まったという。参加した人たちの寄せ書きの入った写真も見せてもらった。車椅子生活を余儀なくされている大将のお父さんも参加したと聞いて胸が熱くなった。

大勢の常連客に還暦を祝ってもらえるというのは、とても素敵なことだと思う。このご時世、お店の売上は下がり気味のようだけれど、昔からの常連さんは決して離れて行くことがないように見える。お店と客の信頼関係とでもいうのだろうか。

二組が帰ったので、私はカウンターに移動した。還暦の話から、いつの間にか私がアルバイトをしていた頃の話題になった。過去を振り返るなんて、何だか少し年を重ねた感じがして恥ずかしい。

それはともかく、当時の私は学生に成り立てて、浮かれていた面があった。そんな中、最初に始めたのが、お寿司屋さんのアルバイトだった。お店の外に掲示されていた募集広告の貼り紙を見て、挨拶に行ったらそのまま決まった。

学生になったのだから、アルバイトくらいするのは当たり前という感覚があった私は、とにかく何かしようと思っていた。ただそれが、お寿司屋だったというのは単なる偶然とはいえ、いまにして思えば本当に良い経験をさせてもらったと思う。

私は定休日を除いた週6日、17時半にはお店に行った。仕事の中心は、飲み物出しと簡単な調理、そして洗い物と出前だった。いまでこそ、寿司屋の出前というのは少なくなった気もするが、20年前の泡経済の頃は、毎日、適度な数の注文が入っていた。

お店の中でも社会勉強をさせてもらったけれど、私にとって大きかったのは、出前に行った先で受けるいろいろな応対だった。

その2へ続きます。

加筆訂正:2011年12月2日(金)

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