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還流独歩

もったいない論争 その2 2010.08.21

その1からの続きです。

それに対し、たくさんのものを所有することが悪いかというと、そうではないだろう。それは大雑把に言えば、その人の収入にも左右されるだろうし、むしろ、ものに対する価値観の違いの方が大きいかもしれない。世界中には、ものがなくても豊かに暮らしている人がたくさんいる。ものを少なくして、ゆとりある暮らしができるのであれば、その方が格好が良いのではないかという勝手な思い込みが、私には次第に芽生えてきた。ものを増やさず、逆に少しずつ捨てて行くことによって、精神的な豊かさが得られるのかもしれないとさえ思う。

こんなことを書くと笑われるかもしれないが、最近、自分でも物欲がなくなった。もののない最低限の生活に慣れてしまって、それが苦にならなくなったのかもしれない。しかも何かを買うときに、本当にそれが必要なのか、とても悩むことが多くなった。どうせ買うなら、少し高くても自分を精神的に豊かにしてくれるものを選びたい。ものは少なくても大切だと感じるものを長く使って行きたい。それは値段によらないこともあるだろう。それがまさに価値観というものだろうし、私の意見に賛同してくれる人は、世の中にはたくさんいると思いたい。

2000年の春、ドイツのカッセル市を離れ、ケルンに引っ越すとき、私は普通の大きさのレンタカーを借りた。少し小さいかと思ったが、私の荷物は車の中にすべて納まってしまった。家具付きの部屋に住んでいたから、荷物が少なかったというのもあるが、座席の下など詰め込めるところをすべて活用したら、全部入ってしまったのである。カッセルを見下ろすヘラクレスの丘に立寄り、半年住んだ街の遠景を目に焼き付けた。駐車上に戻り、荷物が目一杯に詰め込まれた車を改めて見たとき、自分の生活に必要なものの少なさに胸が熱くなった。そして何とでも生きて行けそうな気がした。

それから10年が過ぎ、私の周りにも確実にものが増えた。捨てようと思っても、何となく思いとどまってしまい、捨てられないものがやっぱりある。その大半が本と資料だ。いつか片付けようと思っても、なかなかできない。自分で「もったいない論争」という標題をつけておきながら、毒されているのは他ならぬ私だったりするのかもしれない。ともかく捨てることをもったいないと考えるのではなく、無駄なものを買うことの方が、むしろもったいないのだという意識を持って、これからも生活をして行きたいと思っている。

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