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Gerd Arntz/ゲルト・アルンツ その2 2011.04.18

その作品や功績について、ここで触れるほどのことではないが、彼が残した数々の作品は、どこかかわいらしく、ときに冷静で、そして洞察力に富んでいる。一つ一つの絵は実に単純でありながら、なぜか心のひだに染み込んで来る。しかも木版画という点も実にアナログ的で見る者を惹き付ける魅力を持っている。

削ぎ落としということばがある。求められているたくさんの中から、必要なものを浮き彫りにさせる作業である。日本では、たくさん詰め込むことが努力だと思われている節があるのに対して、ドイツや欧州の考え方は、いかにして簡素化するかに重きを置いている面が少なくともあるのではないかと私は思うようになった。

それがすべての場合にあてはまるわけではないが、ともかく日本は、あらゆる面において、あれもこれも入れ込むことが重要だ考える傾向にあり、それが仕事だと考えていることはないだろうか。詰め込むことが重要であり、引き算の思考は努力していないと見られる。たくさんあることが価値であり、少ないことは足りないことだと捉える。

ゲルト・アルンツが遺した作品を見ると、デザインとは決してそうではない面を持っていることがよくわかる。しかも彼の時代はバウハウスの隆盛期と重なる。互いに影響を与えていたかどうかはわからないが、バウハウスの理念の一つである、誰もが手に入れられる安価なものに、使いやすく質の高いデザインを活かしたいという方向性と合致する気がする。

彼が追い求めていたものが本当は何であったかを語る資格は私にはないけれども、この不穏な状況における一つの方向性を示唆しているのではないかと思う。彼の作品の数々は、複雑な社会の一面を的確に表現しているがゆえに、それが何とも憎めない一服の清涼剤としての役割を持っているように感じられる。

削ぎ落とされたデザインというのは、もしかしたら凝り固まった思考を柔らかくしてくれるのかもしれない。

Gerd Arntz/ゲルト・アルンツ

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