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還流独歩

人生の不安 2009.09.05

ドイツで新しい生活を始めた頃、自分がどんな気持ちだったかを想い出すときがある。そんなことを回想しても何の意味もないのだが、自分の経歴を少し話したときなど、相手からそんな質問を受けることも多い。一つ言えることは「寂しいと感じたときは一度もなかったけれど、毎日が不安だった」ということだろう。

不安を感じる一方で、自分がどんな風に変わって行くのかが楽しかった。不安定な面白さとでも言い換えられるだろうか。自分がどうなって行くかわからない状況には常に不安が付きまとっていたけれど、それが大変だとか、もう止めたいなんて思うことなど一度もなかった。いまにして思えば、自分の将来が見えない時期は逆に楽しかったといえるのかもしれない。

ドイツで行き詰ったとき、オランダのデルフト工科大学で博士課程に進む話もあった。オランダの設計事務所で働ける機会が得られそうになり、アムステルダムで部屋を契約する寸前まで行ったこともあった。「ドイツよ、さらば。オランダ、待ってろ」と新たな勇気が沸いてきたこともあった。それはみんなうまく行かなかったけれど、大きな自信になった。きっと、うまく行かない不安なときこそ、たくさんのことを学べるものだと思う。

そんな不安はいまも続いている。不安を感じる人とつきあいたいとは思わないだろうけど、これまで、ずっと不安な状態が続いてきたら、それが当たり前になってしまって、不安な状態を受け止め続けている自分に、意外と変な余裕が生まれてきた気がする。ドイツに行った頃の不安と、いま感じている不安も、結局は何も変わっていなくて、それはむしろ自分がどう変わって行くのかを楽しむための裏返しなのかもしれない。

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