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還流独歩

雨漏り 2009.10.07

台風が来ている。夜になって雨足が強くなった。寝ていても、バルコニーや窓を雨がたたき付ける音が気になる。午前3時くらいだっただろうか。何かを弾くような、小さな音が繰り返し聞こえて来るようになった。寝ている頭の片隅で考えたのだが、どうやら雨漏が始まったらしい。その予感は当たった。

電気をつけてみると、天井の一部が濡れていて、その真下にあるプリンターの上のファクスには落ちてきた水滴が飛び散っている。机を少し移動させて、床にバケツを置く。そのままだと、水滴が底を打つ音が気になるので、新聞紙を入れて少し消音する。幸いにも、それほどひどい状況ではないが、規則正しく雨だれが落ちてくる音は意外と気になるものだ。

雨が降ったからといって、毎回、雨漏りするわけではないし、梅雨の時期にも問題はなかった。大家さんが言うように、北側の壁に雨が長時間に亘って当たると漏水するらしい。今回は台風による暴風雨だから、きっとその通りになっているのだろう。天井から雨漏りする件は承諾の上で、ここを借りている。

水滴はバケツの中に命中しているので、そのまま寝てしまっても、おそらく問題はないと思うのだが、やっぱり気になるので、状況を見ながら朝の4時前に作業を始めてしまう。バケツに新聞紙を入れて、あまり雨音がしないようにしても、規則正しく発せられる音はうっとうしい。被害が拡大しないか、時折、天井を見上げているうちに、外が少しずつ明るくなってきた。

雨漏りはしない方が良いに決まっているが、これには感謝しなくてはいけない。その理由は、エネクスレインという名前を思いつくことなった大きなひらめきを生んでくれたからだ。「エネクス」という言葉を格にすることは決まっていたが、そこに何かもう一つ、地球の大きな営みや、あるいは概念を表す言葉を一つ加えたいと思いながらも、歯がゆい時間が過ぎて行った時期があった。

いろんな思いを巡らせていたとき、何気に想い出したのが、大家さんが言っていた「雨漏りしますけどいいですか?」という言葉だった。「いまどき雨漏りなんて聞いたことないな。でも逆に面白いな」と正直思った。そうしたら突然「雨」という言葉に行き着いた。それは自分の中で「これで決まった」という瞬間でもあった。

雨なんて晴れや曇りと一緒で、身の回りで普通に起こる一つの気象現象だ。それが「エネクスレイン」という名前の中に実際に入ってくるまで、どうして気がつかなかったのか不思議なくらいである。濡れている天井を見上げながら、そんなことを想い出しつつ、早朝に再び眠りについた。雨に感謝しながら。

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