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還流独歩

ベルリンの壁 2009.11.09

ベルリンの壁が崩壊してから20年が経った。そのときの様子はニュース・ステーションで見たことをはっきりと覚えている。私はテレビがない生活を20年近く続けているが、この光景はどこかの家の中で見ていた記憶がある。それが自宅だったとすれば、まだテレビのない生活を始める前だったということになるし、もしかしたら当時入り浸っていた友人宅で見ていたのかもしれない。

その記憶は定かではないのだが、それよりもはっきりと想い出に残っているのが、若林正人さんの中継だった。若林さんは東京大学を卒業したあと、当時の東京銀行に入社し、欧州での経歴を経て、公募でキャスターに抜擢された希有な人である。彼を一躍有名にさせたのは、その経歴ではなく、むしろたどたどしい中継だったのだが、ベルリンが崩壊した日、若林さんは、声高な声をいつもよりもさらに高くして現場の様子を伝えてくれた。

「わ、わた、わたしはいま〜、ベ、ベル、ベルリンの壁に〜来ています。たく、たく、たくさんの人が壁を越えています。私はベルリンの大学で学んだ時期が〜、あるの〜ですが〜、私が〜生きている〜間に〜、この壁が〜、なくなる日が来るとは〜、夢にも思いませんでした〜」、といった感じのことを言っていた(はずだ)。

当時の私は、ドイツに興味もなければ、海外に行きたいとも思っていなかった。映し出されるベルリンの光景を見て、とても遠い世界で起きていることのように思えたし、実際、ベルリンの壁がなくなったことなど何の関心事でもなかった。だからベルリンに行き、壁があったところを訪れても何の感動もない。

かつて東西ドイツが壁で隔てられていたという事実と、それにまつわる悲しい出来事が起きたことはもちろん理解できるけれど、私の中のベルリンの壁というと、ブランデンブルグ門の前から、いつになく興奮した表情と高い声で中継してくれた若林さんだけが想い出されるのである。あの中継の様子、どこかに残っていないかな。

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